フィッツジェラルドの午前三時③
さて、スコット・フィッツジェラルドは、放蕩三昧の人生を過ごしていたわりに、一年ごとの「出納簿」をこまめにつけていたらしい。そこには金銭の出入りだけでなく、人生の決算も纏められていた。仕事はしたかとか、ゼルダとの関係はどうだったかとか、幸福だったかとか。そして、アルバムならぬスクラップブックを自分の分と妻の分、作っていた。そこにはありとあらゆるものがスクラップされている。もちろん写真もある。プリンストンで上演された音楽劇「いちばん美しいショウ・ガール」に出演した時の、女装写真まで。そして、その扮装で、スコットはつば広の日よけ帽をかぶっているとか。新婚の場面で、ゼルダの帽子をかぶっておどけたスコットには、そんな意味があったかもしれない。
さて、劇中スコットが何度も言うように、「フィッツジェラルドが短篇を書くのは金のためで、その作業は重荷であり、できれば長篇に打ちこみたい」というのが彼の本音であったようだ。【三章からなる物語を三日間で一気に書きあげ、つぎに一日か一日半で手直しし、すぐに送ってしまわなければならない】というのは、「美しく呪われた人」に出てくる言葉だ。ただ、スコット自身は、「サタデー・イブニングポスト」のための短篇を書く「気分になる」のに、平均六週間を必要としたらしい。が、劇中ローラが語るように、実はフィッツジェラルドの短篇ファンも多勢いる。フィッツジェラルド自身、すべての短篇を「屑」とは思っていなかったようで、最初の短篇集「フラッパーと哲学者」の収録作品を、「読むに値すると思われる短篇」「…