フィッツジェラルドの午前三時③

さて、スコット・フィッツジェラルドは、放蕩三昧の人生を過ごしていたわりに、一年ごとの「出納簿」をこまめにつけていたらしい。そこには金銭の出入りだけでなく、人生の決算も纏められていた。仕事はしたかとか、ゼルダとの関係はどうだったかとか、幸福だったかとか。そして、アルバムならぬスクラップブックを自分の分と妻の分、作っていた。そこにはありとあらゆるものがスクラップされている。もちろん写真もある。プリンストンで上演された音楽劇「いちばん美しいショウ・ガール」に出演した時の、女装写真まで。そして、その扮装で、スコットはつば広の日よけ帽をかぶっているとか。新婚の場面で、ゼルダの帽子をかぶっておどけたスコットには、そんな意味があったかもしれない。 さて、劇中スコットが何度も言うように、「フィッツジェラルドが短篇を書くのは金のためで、その作業は重荷であり、できれば長篇に打ちこみたい」というのが彼の本音であったようだ。【三章からなる物語を三日間で一気に書きあげ、つぎに一日か一日半で手直しし、すぐに送ってしまわなければならない】というのは、「美しく呪われた人」に出てくる言葉だ。ただ、スコット自身は、「サタデー・イブニングポスト」のための短篇を書く「気分になる」のに、平均六週間を必要としたらしい。が、劇中ローラが語るように、実はフィッツジェラルドの短篇ファンも多勢いる。フィッツジェラルド自身、すべての短篇を「屑」とは思っていなかったようで、最初の短篇集「フラッパーと哲学者」の収録作品を、「読むに値すると思われる短篇」「…

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フィッツジェラルドの午前三時②

本日、ソネットのブログが大幅に変わった。トップページからして全然違っている。(このブログを「お気に入り」に入れている方には、何にも変わらないと思うが、同じソネブロ仲間の方には頷いていただけると思う。) 「共通テーマ」の区分もだいぶ変わっていた。本来なら、新区分で区切り直すべきだと思うが、全部直すのはとても面倒なので、新年度(2006年4月1日以降)のみを変更した。宝塚に関する内容は、今後「演劇・ミュージカル」という「共通テーマ」に区分することにした。それが、直接舞台に関係ないことだったとしても。ちなみにこの「共通テーマ」、ブログの各記事の一番下のところに、ひっそりと出てくる。ソネブロのトップから入らない限り、あまり気にすることもない区分かもしれないが、念のため。 というわけで、昨日の続きを。大都会での成功、という夢を達成したのはよかったが、スコットはいささか当惑してしまった。“ぼくは最低の記者よりもニューヨークのことを知らず、リッツ・ホテルの使いっ走りのボーイよりも社交界のことを知らなかったから、そんな役割を演じることは不可能だったのに、その事実が証明されないうち、またたく間に、世代の代弁者にして典型的な時代の子という席に座らされてしまったのだ”そしてさらに、“アメリカの若い娘の典型を作ったのがぼくの責任だとしたら、その仕事はまちがいなく失敗だった”とか、1930年過ぎに親戚の娘がフラッパーを気取っていると聞いて、“ぼくのつまらない若書きを真似しているのだとしたら、彼女に対して寛大にふるまわなけれ…

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フィッツジェラルドの午前三時①

フランス人作家ロジェ・グルニエ氏がフィッツジェラルドについて書いた随筆「フィッツジェラルドの午前三時」を読んだ。 フィッツジェラルドの午前三時 作者: ロジェ グルニエ 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 1999/03 メディア: 単行本 午前三時というのは、フィッツジェラルドの作品「崩壊」に由来する。【魂の真暗な闇のなかでは、来る日も来る日も、時刻はいつでも午前三時なのだ。】上の写真は、この本の表紙。新婚時代のフィッツジェラルド夫妻の写真と、赤い薔薇の花…「THE LAST PARTY」を観た人にはたまらない構図だ。この随筆は、中身も、あの舞台を観た人が、なるほど~と、膝を打つような数々のエピソードから成り立っている。 というわけで、以下は、この随筆の感想ではなく、そんな共通の記憶の紹介としてお読みいただきたい。直接ドラマに登場するエピソードもあれば、あの場面は、こういう心理から生まれたのか!というエピソードもある。そして「THE LAST PARTY」をもっと深く楽しめることは、間違いないと思う。 【彼にはひとつの確信があり、それを一度たりとも放棄することも、裏切ることもしなかった。彼にとって、文学を超えるものは何ひとつとしてなかった…】“ヘンリー・ジェイムズは、彼の時代のもっとも偉大な作家だ。したがって、ぼくにとってジェイムズは、彼の時代のもっとも偉大な人間なのだ”  「夜はやさし」のタイトルは、キーツ「小夜啼鳥に寄せる頌歌」の一節で、冒頭のエピグラフとして、そ…

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「華麗なるギャツビー」

「THE LAST PARTY」に関連して、フィッツジェラルドの最高傑作、「華麗なるギャツビー」を読んでみた。 華麗なるギャツビー―The great Gatsby 作者: F.S.フィッツジェラルド 出版社/メーカー: 講談社インターナショナル 発売日: 1994/09 メディア: 文庫 この作品は、1991年に宝塚歌劇・雪組で上演されている。演出は、小池修一郎。彼にとっては、大劇場3本目の作品。バウデビュー作「ヴァレンチノ」の時に、この作品とどちらを発表するか悩んだ、というから、小池にとっては、かなり思い入れのある作品であり、作者だったのだろうと思う。その後発表された「失われた楽園」という作品は、フィッツジェラルドらしき人物まで登場し、ストーリーも「ラスト・タイクーン」を下敷きにしたような作品だった。1990年代前半の小池作品は、しばしばひとつの欠点を指摘されている。つまり、因果応報を否定する作品作りだ。問題のある主人公が、報いを受けずに幸せになる。今思えば、現実の世界は、もちろん因果応報ではないわけで、小池は、その空しさをフィッツジェラルドから学び、そういう舞台を好んで制作してきた気がしている。 小説を読んでいると、小池がいかにこの作品に傾倒していたかが、手に取るようにわかったし、読みながら、舞台のシーンを思い出すことも多かった。というわけで、当時のキャスティングも盛り込みつつ、読み終わったギャツビーの物語を考えてみたいと思う。ドラマは、すべて、ニック・キャラウェイ(一路真輝)…

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シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」

近所の図書館で借りて読んでみた。シェイクスピアを借りて読んだのは「十二夜」以来。その時と同じ棚にちゃんと置いてあったのが笑えた。図書館って不思議なくらい本の位置関係が変わらないものだな。(「十二夜」を借りたのはバウ公演の時だから、たぶん7年近く経っている?)借りたのは白水Uブックスのシェイクスピア全集。東京芸術劇場館長の小田島雄志氏が訳したものだ。 それにしても、本当に男しか出てこない芝居である。女性の役は、ブルータスの妻・ポーシャがちょこっと出てくるだけで、シーザーの妻・キャルパーニアなどは、ほとんど端役レベルだ。そして、それ以外の女性は出てこない。このまま舞台化したら、娘役ファンとしてはちょっと許せない気分になると思う。さて、この「ジュリアス・シーザー」は、様々な史料から1599年初演ということが確認できるそうだ。日本でいえば関が原の1年前。「野風の笛」の時代…。シェイクスピアは「ヘンリー五世」を書き、この「ジュリアス・シーザー」を書いて、さらに「ハムレット」を書いた。そして、「ヘンリー五世」の凱旋はジュリアス・シーザーのそれを模して描写され、「ハムレット」には、ポローニアスが大学時代に「ジュリアス・シーザー」を演じたことがある、というセリフがあるそうだ。これは解説にある通り、実際にポローニアス役者がその前にシーザー役者だったことを言っているように思う。つまり「楽屋落ち」というやつだ。もしそうだとすると、ジュリアス・シーザーを演じる役者は、ポローニアスクラスの俳優ということになる。スターシス…

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阿倍小足媛のその後

闇の左大臣―石上朝臣麻呂 作者: 黒岩 重吾 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2003/07 メディア: 単行本 こんな本を読んだ。石上朝臣麻呂は、天智天皇の側近でありながら、壬申の乱を生き抜き、70歳以上の天寿を全うした、この時代には珍しい人物。「飛鳥夕映え」よりは、少し時代が下って、近江朝~奈良時代までの話だ。 が、もちろん「夕映え」の登場人物も出てくる。そして、とんでもない記述を発見してしまった。軽皇子は、中臣鎌足を味方につけるために、妻の小足媛に鎌足の伽をさせた…と。こ、、、これは、作者の創作?それとも歴史的事実?どちらにしても、小足媛と石川麻呂のエピソードは、柴田先生の創作のはずだし、おちつけ、自分…と思いながらも、 う…うらやましいぞ、小足媛! 宝塚をご存知ない方には、わからない話ですね。すみません…中臣鎌足・軽皇子・蘇我石川麻呂は、そのお芝居では、とってもステキだったんです。史実はどうであれ…。

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フェリーニ作品

「ナイン」の原作「8 1/2」は、フェデリコ・フェリーニの自伝的映画だが、フェリーニといえば、そう、「甘い生活」があったんだわね。 「甘い生活」=ドルチェ・ヴィータ。懐かしいロマンチカの世界がよみがえってくる。実際の映画は、甘美なミュージカルとは全然違って、かなりシニカルな内容だと聞いているが。さらに「サテリコン」という作品も撮っているらしい。これはローマという街の成熟=頽廃を余すところなく描いた作品という。 オギーは、フェリーニに触発されて、あの幻想的な世界を描いたのかな?まとめて見てみたいかも…。

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