「暁の寺」

三島由紀夫の「暁の寺」を読了した。 豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫) 作者: 由紀夫, 三島 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1977/11/01 メディア: 文庫 この作品は、三島の絶筆『豊饒の海』全四巻の三番目に当たる。起承転結の“転”に当たる本作では、松枝清顕⇒飯島勲と続いた生まれ変わりの先が、タイのプリンセスになっている。生まれ変わり、20歳で死に、また生まれ変わる…という基本的な流れは変わらないが、相手が外国の少女になったということで、本多の思いも大きく変わる。三巻にして初めて、本多が生まれ変わりの対象に恋をする。また、本多は、弁護士報酬として濡れ手に粟の大金を手にしたりするし、その一方で、ピーピングトムをやっていたりする。もう爽やかな本多のかけらも残っていない。 でも、読みながら、この本多こそ、珠城りょうに演じてほしい…と思った。まあ、ありえないんだけど。なぜだろう。素敵でかっこいい役じゃなくて、人生の悲哀を感じられる役を演じる機会があったら、それこそ珠城りょうがトップであった証になるのでは…という気がした。ショーでは「BADDY」という珠城ならではの作品があるが、芝居もね…下級生時代の「月雲の皇子」「春の雪」に匹敵するような、野心的な作品がほしかったな。(「春の雪」があるのに「暁の寺」で画期的かと聞かれるだろうが、それでも画期的です、と言える。) 以下、印象に残った部分を少し。「思いもかけぬ金が入った…

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配信「Dream Stage」

“朗読”という楽曲のMusic Videoを届ける Dream Stageー読奏劇ー朗読『シャルル・ペロー著/眠れる森の美女』(原題:眠る森のお姫さま) コロナ禍の中、多くの舞台が中止や延期になってしまい、そんな中、少しでもエンタメを動かそう…ということで、配信という手段で多くの作品が世に出された。それは、8月になり、舞台が復活した今でも続いている。舞台と配信をミックスした公演や、無観客配信公演を劇場から発信する等、色々な手法が登場している。緊急事態宣言時ではないので、配信といっても、出演者は自宅でなくスタジオで撮影ができるし、映像や音楽も凝ったものを見せることができるようになった。そして、質の向上に伴い、無料ではなく、有料での配信が当たり前になった。コロナ禍が、新たなエンターテイメントを創り出したと言えるかもしれない。 今回の「Dream Stage」は、2.5次元俳優8名が朗読者としてピックアップされている。朗読される作品は、すべて著作権フリーの素材。私が購入したのは、太田基裕が朗読するシャルル・ペローの「眠れる森の美女(La Belle au Bois Dormant)」(楠山正雄訳「眠る森のお姫さま」)。翻訳ものの場合、二次著作権も消滅している必要があるため、1950年に亡くなった楠山(1884‐1950)の訳を使ってるようだ。また、今回、伴奏音楽に、自粛中、太田が作曲した音楽が使用されている。 スタジオの内装や調度品、ライティングや演出、カメラワークなど、めちゃめちゃ耽美。太田はシ…

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「最初の悪い男」

2018年に発行されたこの本のことは、全く知らなかった。ゆうひさんが、「群像」誌の中ですごい本だ、と紹介していて、まあコロナ禍の中、暇だしなーと、Amazonでポチってみた。それ以前から、私のツイッター上を賑わせている「掃除婦のための手引き書」もついでにポチった。両方とも訳は、岸本佐知子さん。昨年の「居心地の悪い部屋」以来、岸本さんの手になる本は、4冊目だろうか。 最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス) 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/08/24 メディア: 単行本 このタイトルで、どんな想像をするだろうか。最初に出会った悪い男に騙され、その影響で私の人生はこんな悲惨なものに…みたいな物語かと、私は思った。 主人公のシェリルは、NPO法人の職員。NPOでは、女性のための護身術を広める活動をしていて、20年くらい前は、ドラマ仕立てになっているシチュエーションごとの護身術ビデオを販売していた。(夜道で後ろから突然抱き着かれたら、こうするみたいな…)もう一人のヒロインであるクリーがシェリルの家の居候になった後、ひょんなことから二人は、このビデオの中のドラマと格闘を全部演じていくことになる。「最初の悪い男」というのは、そこに出てくるキャラクターのことだったのだ。え、なんで、それがタイトル タイトルのみならず、すべての展開が「え、そこ」「え、そうくる」で繋がれていって、最後まで行くと、主人公の人生が大きく変わっている。この小説を書くちょっと…

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「スマホを落としただけなのに‐囚われの殺人鬼‐」

前作、「スマホを落としただけなのに」で、事件を解決に導いた刑事、加賀谷(千葉雄大)が今回の主人公。ドラマ「おっさんずラブ-in the sky-」を見た後だと、前作のカップル(田中圭・北川景子)の結婚式に、加賀谷が恋人の松田美乃里(白石麻衣)を連れていく場面にムズムズする。とはいえ、田中と北川は特別出演なので、そのムズムズが長続きすることはない。教会での結婚式からのガーデンパーティーという流れだったので、披露宴のように、出席者がガチガチに決まっているわけではなかったようで、加賀谷は、その場で美乃里を紹介する。「じゃあ、次はあなたたちね」みたいに新郎新婦に言われた時、加賀谷の顔が曇る。結婚式に連れていく相手、というのは、公式なイメージ。だから、加賀谷にとって美乃里は、ステディな彼女なわけだ。にもかかわらず、“結婚”に踏み切れない。それは、前作の逮捕前のシーンに出てくる加賀谷自身のトラウマにつながっているー加賀谷は、警察に入る前には、IT企業にいた。社長の笹岡(鈴木拡樹)と二人で会社を立ち上げ、そこへ入社した美乃里と付き合うことになった。もう3年にもなるのに、まだ警察内部では交際相手として登録してもらっていない。 一方、逮捕された浦野(成田凌)が多くの死体を埋めていた丹沢で、偶然、若い女の白骨死体が出た。しかし、長い黒髪に執着する浦野にしては、今回の被害者の生前の写真は、茶髪のショートだった。浦野への余罪追及を行おうとする捜査陣だが、浦野は、加賀谷になら話す、と条件を付ける。浦野は、自分にネット犯罪…

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「パラサイト 半地下の家族」

映画が解禁となったものの、最初のうちは、新作ではなく、自粛前の続き…という形。新作が、軒並み公開延期を発表したからだ。先週は、シネマ歌舞伎を見たが、今週は…と、考えて、ずっと気になっていた「パラサイト」を観ることにした。この「パラサイト」、モノクロ版も公開されていて、PG12…ということは、想像するに、この映画、けっこうエグいシーンがあるのではそんな気がして、モノクロ版の方を見ることにした。まあ、時間的にもそちらの方が都合がよかったのだけど。 結果…エグかったです、クライマックスが。モノクロだったので、最後まで顔を覆うことなく見ることができ、よかった キム・ギテク(ソン・ガンホ)の一家(妻と息子と娘)は、全員失業中で、半地下に住んでいる。長男のギウ(チェ・ウシク)は、親友の大学生ミニョク(パク・ソジュン)から、留学するので家庭教師の後任をやらないか、と持ち掛けられる。担当している高校生のダヘ(チョン・ジソ)がすごく可愛いので、大学に入ったら付き合いたいと思っている、なので、同じ大学の仲間には危なくてダヘを見せられない。だから…というわけだ。ギウは、受験経験は豊富だが大学にはまだ入れていない。しかし、美大に落ちた妹のギジョン(パク・ソダム)に偽造させた大学の在学証明書を持って、ダヘの家に向かった。受験の知識も豊富で教え方もうまいギウに、すっかりダヘの母親は満足。ダヘには、年の離れた弟のダソン(チョン・ヒョンジュン)がいる。アメリカン・インディアンに傾倒していて、母親によると絵画の才能があるらしい…

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シネマ歌舞伎「京鹿子娘二人道成寺」

映画館が開いたので、さっそく、シネマ歌舞伎「京鹿子娘二人道成寺」を見てきた。シネマ歌舞伎HPに、予告編も載っているので、こちらも見てください。 https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/03/ そういえば、この映画館が休止するという情報を得て、最後に鑑賞したのもシネマ歌舞伎(風の谷のナウシカ)だった。あれから3ヶ月ーシネマ歌舞伎には、筋書き(プログラム)が付かないので、解説が欲しい場合、心もとなかったりするが、本作品は、イヤホンガイド(あらかじめアプリをダウンロードしていれば)を聞くことができる。なるほど、よいサービスかも。ちなみに、イヤホンガイドは税込500円。初回はサービスで無料とのこと。 「京鹿子娘道成寺」という舞踊のコンセプトは、安珍清姫でおなじみの道成寺の鐘が大蛇によって焼かれたのち、新しい鐘ができてその供養の日、現れた美しい白拍子の花子が舞を奉納することになるが、実は、花子は清姫の怨霊で…というもの。  これを二人で踊るのが「京鹿子娘二人道成寺」、五人で踊るのが「京鹿子娘五人道成寺」。シネマ歌舞伎には五人版もあって、こちらの方が新しい(2016年収録)。今回見たのは、2006年収録なので、もう14年前か。白拍子花子役は、坂東玉三郎と尾上菊之助。菊之助は、この時、28歳。前年、「NINAGAWA十二夜」に取り組んだばかり。いろいろ挑戦もしてきた中で、父と同じ道(立役も女方も演じる)を進むのであれば、避けては通れない女方の壁、玉三…

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「オレたち花のバブル組」

「半沢直樹」が日曜劇場に帰って来る、ということで、長いこと積読だった、この本を読んでみた。 オレたち花のバブル組 (文春文庫) 作者: 池井戸 潤 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2010/12/03 メディア: 文庫 ドラマから入ったので、読みながら、ドラマがほぼ脳内再生されるような読書体験だった。あ、ここドラマと違う…みたいなこともなく、かなり忠実にドラマ化されたんだな~と思った。 それにしても、平安時代の昔から、政治は人事とは、よく言ったもので、メガバンク内の人事は、まさに政治案件なのだな~と、ひしひしと感じる。でも、偉くなることだけが、仕事の目的ではない。バンカーの矜持を守り抜き、産業界の発展に寄与する、という半沢の心意気が、心地よかった。シリーズ、全部読んでみようかな。

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解除されないので…

時間はたっぷりある…と思い、アマゾンで本を購入しました。 最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス) 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2018/08/24 メディア: 単行本 掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2019/07/10 メディア: 単行本 両方とも岸本佐知子さんが訳した本で、女性作家の作品。上は長編で下は短編。上の作品は、ゆうひさんのおススメ本でもあるので、ファンの皆様、よかったらぜひ。妄想族の皆様、この世界は、まだまだ奥が深いようですよ

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リモ止め!

2年前に大ヒットした映画「カメラを止めるな!」の監督、キャストが一堂に会して…いやいや、一度も会わずに、短編映画を作ってしまいましたその名も『カメラを止めるな!リモート大作戦!』。ZOOMを利用して会議シーンを録画したほかは、個々の俳優が自らのスマホで撮影した映像を組み合わせるという、すごい企画。「カメラを止めるな!」同様、企画&製作中のバックステージを見せつつ、本編映像と組み合わせる入れ子構造になっていて、撮影ツッコミどころ(同じ場面なのに撮影時間が違うとか)も、そのままZOOMの中で突っ込まれている。ただ、「カメラを止めるな!」が冒頭に本編を持って来て、後半にバックステージを見せることで、観客の心を掴んだのとは違い、今回は、ZOOMで企画が持ち込まれるところからスタートし、間に本編を何回かに分けて挿入するスタイルを採っている。そして、すごいな~と思ったのは、この「分断された本編」の「完成版」を、ミニシアター救済の寄附者に対するリターンとして用意しているということ。YouTube上で最後まで全編公開されているから、最後が分からなくてキモチワルイこともないし、それは、この『カメラを止めるな!リモート大作戦!』が1本の短編映画として完成と見做されるためには、必要不可欠な条件だったと思う。なんだけど、分断されていること、そして、ZOOMシーンで突っ込まれていることを考えると、完成した映画はどんなふうに表現されているんだろうという興味は湧く。 上田慎一郎監督、天才ですね。 企画の内容も集まった多くの…

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いだてん到着!

現在、BSプレミアムでも再放送が始まっていますが… 大河ドラマ いだてん 完全版 ブルーレイBOX1 全4枚 出版社/メーカー: NHKエンタープライズ メディア: Blu-ray 届きました。不本意ながらずっと自宅にいるので、さくさく鑑賞が進みます最終回を知っていると、なんと、第1回から泣けるんですよ~これが、あれの伏線かというのがいっぱいあって、いや、これは何度でも楽しめるドラマです PS.くどかんさん、ご回復、おめでとうございます 石の間から咲く花のように、あきらめずに、強い気持ちで過ごしていきたいものです。

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