「BANANA FISH The Stage 後編」
原作:吉田秋生「BANANA FISH 」(小学館フラワーコミックス刊)
脚本:畑雅文
演出:松崎史也
音楽:伊藤靖浩
アクション監督:栗田政明
パルクールコーディネーター:HAYATE
舞台監督:堀吉行、須田桃李
美術:石原敬
照明:大波多秀起
音響:遠藤宏志
映像:森すみれ、荒川ヒロキ
衣裳:中原幸子
ヘアメイク:小竹珠代
演出助手:山崎絵里佳/船木政秀、小林賢祐
音楽制作協力:宮里豊(音楽編集/録音技術/Gt.演奏/Dr.編曲)、emyu(Vn.演奏)、佐野幹仁(Perc.演奏)、佐藤悦郎(T.Sax演奏)
声の出演:高羽彩
原作協力:古川麻子(小学館 月間Flowers編集部)
製作委員会:ネルケプランニング 松本美千穂、堀内雪子、各務裕梨佳
小学館 沢辺伸政、古澤泉
主催:「BANANA FISH 」The Stage製作委員会
(C)吉田秋生・小学館/「BANANA FISH 」The Stage製作委員会
前編もとても観たかったのだが、抽選に敗れ、配信で観劇した。
配信でも素晴らしさがわかったので、後編は、かなり力を入れて抽選を申し込んだため、4回も観劇することになったのだが、全然後悔はしていない。素晴らしかった、本当に。
前編で、普通なら出会うことのなかった、日本人大学生、奥村英二(岡宮来夢)と、NYのストリートギャングのボス、アッシュ・リンクス(水江建太)の出会いと、二人の間に不思議な絆が結ばれていく過程がじっくりと描かれ、そんな中、ストリートギャング同士の抗争の果てに、アッシュが死んだというニュースが流れ、そこで幕が下りたわけだが、後編は、「二人の友情は鉄板」として、それ以外のあれやこれやで、ハラハラさせていく。
原作通りの進行で最後の場面まで上演され、客席のあちこちからすすり泣きが聞こえる。
でも、それだけでない作り方が素晴らしくて、4回観劇したのに、まったく飽きることがなかった。
しかも、その間、体調不良者等の発生で、二度も演出変更していたのに、まったく変わらぬクオリティの舞台が展開され、スタッフのツイートによると、出演できなくなったキャストの代わりに代役を用意する提案もされたけど、それだと、このスピード感が維持できないからと、人数減でアクションシーンを乗り切ったそうで、これは、もしかすると、日本の演劇が大きく変わる舞台になったんじゃないかと勝手に思っている。
上のスタッフ表にある、「パルクール」というのが、カギなんじゃないかと思うのだが、初めて聞く単語なので、どうにも意味がわからない。栗田政明氏がアクションを担当する舞台は、これまで山のように観てきたが、これほどスピード感にあふれ、アクションを観ることが楽しいと思える舞台は、初めてだった。
そもそも、私は、殴り合いは好きではない。ガンアクションは、殴り合いよりはマシかなーという感じ。
それが、アクションシーンに目を奪われているのだから、よっぽどすごいのだと思う。主人公のアッシュは、殺人マシーンと呼ばれるほどの技量の持ち主なのだが、演じる水江が無駄のない動きで、次々に敵を倒していく姿は、うっとりとしてしまうほど。また、ゴムまりのように、小気味いいアクションを見せるシン・スウ・リン役の椎名鯛造にも、わくわくさせられた。
もちろん、彼らが活躍するためには、少ない人数で、現れては倒される敵をひたすら演じ続ける、アンサンブル俳優たちの高い技術が必須になる。高い技術と、強い絆が、客席からも十二分に感じ取れる、最高のアクションだった。
ガンアクションって、ただ撃ちまくるだけだと、嘘っぽい。ピストルには、込められる弾に限界があり、一人で多くの敵に立ち向かう場合、銃に弾を込める時間なんかどこにもない。接近戦を仕掛け、相手の銃を奪いながら、進んでいく。盾の代わりに敵の体を利用する。よどみなく、進んでいくアクションシーンは、手に汗は握るけど、同時に、脳が痺れるような、快感も伴う。
これをキッカケにアクションが好きになっちゃうかもしれないなー、と思うくらいステキだった。
という盛り上がりを見せながら、それだけじゃない。アッシュと英二の間の、誰にも奪えない絆の強さや、アッシュをはじめNYで生きる若者たちの過酷な運命が、短く纏められた脚本の中に、しっかりと実感を持って描かれている。ラストの悲劇も、原因は痛いほど伝わった。
結果的に悲しい物語なんだけど、観ていて気持ちのよい、多幸感に包まれる舞台だった。
出演者感想。
水江建太(アッシュ・リンクス)…名前は知っていたが、実際に演技を観たのは、前編の配信が初めて。少女マンガに登場する金髪の美少年を日本で3D化するなんて…と思っていたが、まったく違和感がなかった。
さらに、アッシュ・リンクスという物語の登場人物に、息を吹き込み、彼の抱える繊細な魂を体現してくれた。
アクションはシャープで無駄がなく、クレバー。その一方で、引き金を引くまでにまったく躊躇がなかったり、至近距離からでも表情を変えずに引き金を引いたり、残忍な一面も感じられる。すべてがアッシュそのものだと思った。
岡宮来夢(奥村英二)…日本の田舎に住んでいたのが、NYにやってきたら、いきなりとんでもない麻薬や抗争に巻き込まれる大学生、そんな中でも自分の正義に従って朴訥に、けれど不屈の闘志を持ってことにあたる…という、絵に描いたように性格のいいおぼっちゃんなのに、性格の悪い私ですら、一切の反感を感じないのは、岡宮の声の力だと、力説したい。
実際若くて(23歳)、実年齢よりもさらに若く見えるのだが、声は、姿から想像できないほどに、深く、味わいがある。帝劇の舞台に立てるほどに歌も上手いのだが、今回は、セリフ劇で、その声の魅力を発揮した。ラストの長い手紙文をナマのセリフにした演出は、そんな岡宮の声の魅力を十分に生かしたものだったと思う。
そんな若くしてなんでもできる役者である岡宮が、パッと舞台に飛び出してくるシーン(いくつかある)で、「普通に立っている」ことにいつも驚く。奥村英二は普通の大学生だが、俳優としての実績を重ねている岡宮が普通の大学生っぽく舞台上に立ち尽くせるって…もしかして、天才ですか
内田朝陽(マックス・ロボ)…ベトナム戦争中に実際にバナナフィッシュを打たれて廃人になった仲間(アッシュの兄)の姿を見ている数少ない人物の一人。現在はジャーナリスト。大人として、時に物語を客観視し、時に積極的に巻き込まれにいく、熱くてかっこいいマックスでした。
冨田昌則(伊部俊一)…英二を助手に採用してNYにやってきたカメラマン。すごく大人に見えるけど、実際は英二より4歳くらい年長なだけ。でも、もう大人だしプロのカメラマンだし、英二を心配することしかできない。
実はものすごい殺陣師なのに、虫も殺さない、腰が引けた人物を演じているところに愛嬌を感じる。
椎名鯛造(シン・スウ・リン)…パワーとスピードと身体能力を備え、それでいてあどけない少年に見える。豊富な舞台経験があるから、若手が多い舞台では頼りになる。今回も、椎名ならではの活躍が随所に見られた。スピード感あふれるアクションシーンの中に、バック宙やものすごい跳躍を挟んでくるなど、オリンピック競技を観ているような感覚に陥る。
休憩時間に物販に行った友人が、鯛ちゃんのブロマイドを買っていたのを私は見逃さなかった
佐奈宏紀(李月龍)…華僑でチャイニーズマフィアを束ねる李家の末弟。兄たちとは母親が違う。父の死後、兄たちに母親を殺された怒りを忘れていない。本作で復讐を果たす。女性と見まがう美貌とロン毛の鬘が似合い、ちょっと気持ち悪い雰囲気の出し方も見事だった。
藤田玲(ブランカ)…後編でゴルツィネが雇った刺客で、かつてのアッシュの“家庭教師”。やばい…かっこいい…語彙力を失う…
谷口賢志(エドアルド・F・フォックス)…元フランス傭兵部隊長。ゴルツィネがアッシュ捕獲のために雇う。が、相当なサディストで、アッシュにもサディスティックな性的興味津々といったところ。
ちょうど、映画「文豪ストレイドッグス」を観たばかりだったので、あの織田作之助が、なんでこんなになっちゃったのと、おののくほどに怖かった。
赤星昇一郎(ディノ・F・ゴルツィネ)…コルシカマフィアのボス。自身の後継者としてのアッシュに固執する一方、かつて性的に彼を愛玩してきたことを今も懐かしく思っているし、隙あらば…とも思っている感じ。アッシュへの愛憎がリアルで、この役を誰が演じるか…という重要性を感じる。
大の大人(男性)が、ちゃんとこの役に向き合ってくれないと世界観が壊れてしまう。そういう意味で、赤星さんには感謝しかないし、男性スタッフの多いこの現場が、「BANANA FISH」の繊細な世界を、そのまままっすぐ伝えようと真剣に取り組んでいることが、とてもよく伝わった。
さて、最後に、カテゴリーの話。これは2.5次元じゃないのか、ということを、ずっとずっと自問自答していた。
が、漫画やアニメ原作の舞台が増えている現状、それだけで、2.5次元とも言えないんだな…ということは、思っていて、友人のK様論「2.5次元は終わりがない」を決定基準のひとつにしている。
本作は、前後編と銘打っているので、「演劇」カテゴリとした。また、考えが変わるかもしれないので、暫定。
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