舞台「フランケンシュタイン」観劇

舞台
「フランケンシュタインーcry for the moonー」


原作:『フランケンシュタイン』(シェリー作 小林章夫訳 光文社古典新訳文庫刊)
演出:錦織一清
脚本:岡本貴也
音楽:KYOHEI
振付:TAMMY LYN


美術:乘峯雅弘
照明:米澤正直
音響:吉田可奈
映像:荒川ヒロキ
衣裳:大西理子
ヘアメイク:瀬戸口清香
演出助手:松本有樹純
舞台監督:芳谷研、渡邉圭悟


制作:新井沙樹、初鹿麻依
制作デスク:神保希枝
票券:Mitt
マーチャンダイジング:須藤明音、飯塚美帆
広報宣伝:野村由佳里


主催:舞台『フランケンシュタインーcry for the moonー』製作委員会


東京公演の千秋楽の日が主演の七海ひろきの誕生日。
かいちゃんの誕生日に、かいちゃんの主演公演を観るのは、バウホール公演「燃ゆる風」以来だったが、あれって、何年前なんだろう[exclamation&question](5年前だそうです[あせあせ(飛び散る汗)]
私は千秋楽ではなくて、昼公演を観劇したが、そこで、アンコールにバースデーイベントをやってくれたのを見ることができて、ラッキーだった。


物語は、とても有名で、色々な形で映画や舞台になっているので、説明するまでもないだろう。
ただ、本作は、なるほど[exclamation]と観客を納得させるエピソードが散りばめられていて、ラストシーンの感動にうまく収斂していくところに、他の関連作品にない魅力を感じる。脚本の妙と、丁寧な演出が功を奏したと言える。


怪物誕生の直前から舞台は始まる。
フランケンシュタイン博士(岐洲匠)が、独り言というか指差し確認みたいな形で、怪物(博士にしてみれば、人体)創造の手順を語り続ける。ここは、出演者の技量が推し量られる場面で、ぶっちゃけ、気の毒な気はした。
墓場の死体から、使えるところを寄せ集め、赤ん坊の脳を使う。生まれたての赤ん坊のように、日々ものを覚えていくだろうから…ということらしい。ただ、右腕だけは適当なものが見つからなかったため、ごつい腕が付いてしまった。
電流が流れたが、蘇生は起こらず、雷が鳴った瞬間に怪物が蘇生する…というのは、過去作通りの展開。
博士は、怪物(七海ひろき)に言葉を教える。生みの親ということで、「パパ」と言わせようとする。怪物が最初に発した言葉が、「パパ」だったということが、最後まで大きな意味を持つ。
怪物は、身体は大きくても、頭脳は生まれたての赤ん坊なので、自身の怪力(ごつい不格好な右腕は、大変な怪力だった)を制御できない。そして、見た目も、その腕のせいで、近寄りがたい…というか、カイちゃんじゃなかったら、ちょっと敬遠してしまう感じだ。
そんな怪物が、盲目のヒロイン、アガサ(彩凪翔)に出会って、彼女の優しさを浴びて成長していく過程は、盲目のアガサだったからこそ、怪物を怖がらなかったわけで、なるほど、と思った。人間の世の、いやなことをいっぱい経験した後に、グリーンランド(原作で怪物の終焉の地となる)でアガサに再会するラストシーンは、ああ、これは、まさかのハッピーエンドなんだ…と気づいた瞬間、涙が溢れた。


登場人物は善悪入り乱れているが、これをメインの出演者が複数役演じ、善悪両方のキャラを表現しているのも面白かった。ストーリー展開上、どうしても、とことんいい人と、とことん悪い人が出てくることになるのだが、これを同じ俳優が両極端演じるというのは、一粒で二度おいしい感じ。
善悪という逆転だけでなく、蒼木陣横山結衣が、不倫カップル(悪)と新婚夫婦(善)を演じるなど、対比の手法も見事だ。アガサ役の彩凪が、ビクターが怪物に与えた女の人造人間を一瞬演じるのも面白かった。この女の脳は、冤罪で刑死したジャスティーヌの脳だったため、生前の記憶と怨嗟が強すぎて、人間らしさの欠片もなかった。優しく、親切なアガサとの対比が見事。
使い古された怪物の悲劇だと思っていたが、こんな風に丁寧に紡ぐことで、温かい人間の物語になるんだな~と、実感した。そういえば、数年前に観劇した「よろこびの歌」も、丁寧に演出された美しい人間賛歌だった。


ちなみにサブタイトルの「cry for the moon」は、「ないものねだり」の意味。「名月を取ってくれろと泣く子かな」的なものですかね。
登場人物たち、それぞれの「ないものねだり」を思い出すと、人間の業を感じるな~。


出演者感想
七海ひろき(怪物)…美貌とスタイルの良さは隠せないので、ぶかっこうに逞しい腕を付けることで、「怪物」感を表現した。どんなに不気味なメイクをしても、変な腕が付いても、美しさを隠すことはできない。そんな七海が、怪物としての悲しみを伝えられるのは、なぜだろう。やっぱり、セリフに想いが乗るから…なのかな。カイちゃんの声、魅力的ですよね。


岐洲匠(ビクター・フランケンシュタイン)…冒頭の長台詞は、少し苦戦していたようだったが、妻の裏切り、弟の死、怪物の離反…など、不幸のデパートのような人生を耐える二枚目であり、怪物を作っちゃうマッドさも内包していて、ステキでした。


彩凪翔(アガサ/女怪物)…退団後の初演劇作品。女優デビュー作品の相手役が先輩の七海だったのは、きっと安心材料だったと思うが、自然にステキな女優になっていたと思う。


蒼木陣(判事/フェリックス)…リズの不倫相手の判事と、アガサの兄のフェリックス。判事は、巨悪になり切れない小悪党な雰囲気がよく出ていた。兄は、善人。どちらも魅力的だったし、蒼木の身体能力もちゃんと発揮する場面があったのは、演出家が出演者をちゃんと見てたからかな。


島﨑信長(ウィル)…脳に障害があるが、博士の弟らしく、聡明な部分も持つ少年、ウィル。不幸な事故で死んでしまうが、その結果、怪物と博士が再開するキッカケができる。とても魅力的な少年だった。いわゆる「頭の弱い子」風に演じていなくて、もっとピュアで個性的な少年という扱いなのは、今風の演出なのだろう。可愛かったです。


横山結衣(リズ/サフィ)…フランケンシュタイン博士の妻だが、財産目当てで、実は、判事と不倫している。サフィは、フェリックスの妻。外国籍であまり言葉も話せないが純粋な可愛い奥さん。
町の踊り子のような役も演じていたが、あまりダンサーな雰囲気ではなく、AKB時代のファンへのサービスショットだったのかな。見た目が可愛いので、リズ役は頑張っていたものの、あまり似合っていなかった。サフィは、ピッタリの雰囲気。


北村由海(ジャスティーヌ)…ウィルの身を心配する召使だったが、リズの悪だくみにより、ウィルを殺した犯人として処刑される。コメディリリーフとしての役回りも担う。実に達者な役者さんで、安心して観ていられた。


永田耕一(ラセー)…アガサのおじいさん。怪物を追い出すけど、後でちゃんとアガサの話を聞いて、理解するとこが、ステキ。この人が、ちゃんと怪物がいい人だったと知って、詫びたかったと言ってくれるとこが、キモだなと思う。ほんと、涙出た~[揺れるハート]

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