「すこたん!」観劇

serial number
「すこたん!」


作・演出:詩森ろば
原作:伊藤悟・梁瀬竜太 全著作


音楽・演奏:後藤浩明
舞台美術:杉山至+鴉屋
照明:榊美香(有限会社アイズ)
衣裳:詩森ろば
音響:青木タクヘイ(STAGE OFFICE)、鏑木知宏
舞台監督:田中翼(capital inc.)、河野千鶴
演出助手:内河啓介
歌唱指導:関森絵美
企画・製作:一般社団法人風琴工房
助成:ART FOR FUTURE


詩森ろばさんの作品にすっかり魅せられ、またまた行ってしまった。
詩森さんの作品は、(私が観た範囲だけど)事実に基づいてた創作で、でもその創作部分は、事実を知らしめるための整理として機能するのであって、決して事実を都合よく改変するわけではない…と思っている。そして、幹になる部分の物語に、大胆に枝葉を絡めてくるのが魅力だな~と。ここで物語が大きく広がる。


今回の「すこたん!」は、とあるゲイカップルの30年の物語。
開演前の解説において「性自認」から話を始め、同性愛とはどういうことなのか、という丁寧な説明をしているところに、作者の「何も知らない観客が、誤解したまま物語に進んでいかないように…」という配慮を感じる。それは、作中の主役たちの名を、敢えて実名にした作者の“覚悟”というか…。
昨年、一度上演中止になった後、モデルのお二人と対話を繰り返し、まったく違った作品になった…というから、「当事者から見てどうなのか」ということは、かなりこだわった部分かもしれない。
その分、演劇としてどうなのか、これはドキュメンタリー(再現ドラマ)になってしまっていないか…という厳しい目でこちらも観てしまった感はあるが、30年というカップルの歴史を辿ることは、それだけで十分にドラマなんだな~ということが、観ているうちに、分かってくる。
一方で、これは、「リュウタとサトル」二人の物語だから、それを観ただけで、ゲイカップルのすべてを理解した気になってしまわれても困る、ということもあっただろうし、そもそもシリアルナンバー自体が、縦糸と横糸を紡いで布を織りあげるような作品作りなので、今回は、縦糸が一組のカップルの30年、横糸が西暦2000年に起きた、さまざまなゲイたちの物語のスケッチという作りになったのかもしれない。
こちらの方を先に簡単に紹介してしまうとー


2丁目のバーで、シマムラハヤタ(佐野功)は、オクムラコウキ(工藤孝生)に出会う。その夜、ワンナイした二人は、連絡先を交換したが、次にコウキが連絡してきたのは、公園で出会い、拾った少年、アオキケンタロウ(中西晶)がリストカットしたというSOSだった。
ワンナイの相手に自分の同棲相手のことで、SOSを出すなんて、めちゃくちゃルール違反だとハヤタは怒るが、救急車も呼べないし、家族に連絡されたら、ゲイだと言ってケンタロウを殴る父親のもとに戻されるかもしれない…と、コウキは怯えている。仕方なく、ケンタロウを車に乗せて、病院へ。ケンタロウは意識もしっかりしていたので、家族にも連絡されることなく、その夜、帰宅が許される。
※ゲイカップルの場合、片方が病院に担ぎ込まれても、相方は病室に入ることもできず、実家の家族に連絡が行く。あと救急車なんか呼んだら…という近所への引け目は、男女カップルや家族住みの持つそれとは比べものにならない。それは、単なる妄想じゃなくて、これまでの、色々な経験が彼らを委縮させるのだ。
そもそも、ハヤタがコウキに目を止めたのは、彼が片想いをしている、家庭教師先の高校生、フカザワアオイ(吉田晴登)に面差しが似ているからだった。アオイがゲイだということには、確信を持っていたが、カテキョと生徒が、いや、そもそもいい大人が高校生と、ただならぬ関係になることは、絶対に避けたいと、ハヤタは思っている。
しかし、高校三年生ともなると、周囲の経験値も上がってくるので、自分も早く大人になりたい。ついては、大好きなハヤタさんに、初めての経験をさせてほしいと、アオイは泣きながら願う。
※これはヘテロ高校生も状況変わらないと思うけど、家庭教師は大学に受かったらやめてしまうし、そういう期間限定の関係性の中で好きになってしまった場合、とにかくステディになりたいという思いが募りますよね。でも、まともな大人なら、そういう必死さで、周囲が見えなくなっている高校生に手は出さない。ハヤタさん、カッコいいです[黒ハート]
タカハシノゾム(河野賢治)は、大学の友人、ツキモトタクミ(辻井彰太)に恋をしているが、タクミはノンケ(ヘテロ)男子。それでも近くに居たくて、ルームシェアを申し出る。しかし、タクミの距離感近くて、スキンシップばんばん出してくる姿勢に耐えられなくなってきている。
一方、タクミは、ノゾムが自分を好きなのでは…[exclamation&question]という疑惑を持ち始め、とうとう、すこたんソーシャルサービスに電話相談をしてくる。「たぶんゲイだと思うルームメイトに告白されたら、どうやって断ればいいか」という、聞きようによっては失礼な質問に、サトル(近藤フク)が真摯に回答したことから、タクミは、自分の胸の中にある思いを深く考えるようになる。
※タクミが潜在的なゲイであったのか、バイなのか、パンセクシュアルなのかは、不明だが、他人に指摘されるまで、自身のセクシュアリティに気づかないことはあり得る。
ツダヌマヨウジ(根津茂尚)とショウジツカサ(大内真智)は、カヌー仲間。そもそもは、すこたんのお茶会か何かで知り合い、カヌーが趣味だということがわかって、それぞれ大会に出場する時に、キャンプをする…という関係。ヨウジは結婚していて、ツカサは癌を患っているが、たぶん、お互いを想っているんだろうな…というのが、遠慮し合う二人の間に感じられる。
※ゲイでも結婚している人はいる。気づかずに結婚して、ある日、ゲイであることに気づく場合もあるし、気づきながらも世間体などからとりあえず結婚し、子供が生まれたら妻とはレスになって外に恋人を作る確信犯もいる。


年齢も見た目も職業もバラバラな人々が登場して、ゲイに見た目の特徴なんてない、ということをビジュアル面からも、伝えてくれる。
さて、主筋のヤナセリュウタ(鈴木勝大)とイトウサトル(近藤)の物語。1990年に、二人はゲイ雑誌を通じて出会う。喫茶店でゲイの話を普通の音量で話すサトルと、周囲を気にするリュウタは、色々違っている。が、リュウタの心の葛藤を放置せず、根気強く対話をしていくサトルだったから、二人は交際を重ねていく。そして、サトルの老母の面倒を見るために同居、親へのカミングアウト…
そして、1994年のニューヨーク・プライドパレードに参加した時に、リュウタは、自己肯定のシャワーが降ってきたと感じ、性的マイノリティについて、小中学校に伝えるような運動をしたいと言い出す。(当時のNYにはすでにそのような団体が存在し、二人は、その様子を見学している。)
それが、現在も続く「すこたんソーシャルサービス」の始まり。
でも、実際に小中学校に出向いて、性的マイノリティの話をすると、生徒や先生の質問に傷つくことが多い。さらに、仕事を辞めたために、必然的に家事をすることが増えたリュウタは、カップルの中での役割分担的なもの(つまり主夫とみなされること)にも耐えられなくて、イライラを募らせる。
また、長く同居しているゲイカップルにありがちなこととして、レスからの浮気みたいなことも発覚。この辺、言わなくても…なことも伝えていく姿勢がすごい。
二人は、話し合いを重ねながら、それぞれ恋人がいたとしても、最終的にパートナーは、この人しかいない…という形にまとまっていく。そして、2019年、千葉市でパートナーシップ制度が制定されたことを機に、千葉市に転居、パートナーシップ第一号の一組となる。


リュウタとサトルの歴史が書かれたセットの木に、その他の出演者たちが、それぞれの人生の歴史を貼っていく。その一番最後、「2027 アオイ結婚」が貼られたところで、物語は終わる。
一番若いアオイが、バトンを受け継ぎ、(でも、これ、2000年の物語…と言っていた(はず)ので、18+27で45歳になってるような気もするけど…)結婚という権利を行使できますように…と、祈るような気持ちになるラストシーンだった。


観劇中、私の両サイドの方が、どちらも号泣していて、なんか、すごく刺さったんだろうな…と思ったが、どういう立ち位置の方だったんだろう。
…というふうに、映画ではなく、演劇という空間で性的マイノリティを描くと、私だけではないと思うが、この方たちはどうなんだろう[exclamation&question]と思ってしまうところがある。
観客の方たちは、どうして、この演劇を観に来たのだろうか。
出演者は男性だけ10人(+演奏者1名)。性的マイノリティの方は人口の10%程度存在すると言われている。10人役者がいたら、中に1人カウントされてもおかしくない。アメリカでは、性的マイノリティについての作品は、性的マイノリティの俳優から主役を選ぶべき、という論が主流らしいが、日本では、オファーを受けた場合、自分が当事者だったら逆に断るんじゃないか…とか、つまらないことを劇中ずーっと考えてしまった。
そして、出演者が、歌ったり踊ったりする…ミュージカル的シーンが何度か出てくるのだが、そこで、思いを込めて歌い踊る出演者の姿に、ここまで熱く演じられると観劇してる当事者はどう思うのかな…とか、なんか、ほかにも色々と考える時間ができてしまって、集中できなかったし、居心地が悪かった。
ま、あえて、歌わなくても…的な出演者が多かったことも一因ではあるが。


リュウタを演じた鈴木は、めちゃ、見た目が好みだった。にもかかわらず、私は、この人を何度も観てるはずなのにスルーしてましたよ。もしかしたら、あごひげ少し生えてる的なのが好きなのかな。(長曽祢虎徹的な生え方ですね[揺れるハート]
あのルックスにイラチな感じが観ていて、すごい好み。
相方の近藤は、辛抱強くて、本当に優しくて、温かいリアル王子様。顔をくしゃっとした笑顔がとっても魅力的。この二人だから、30年間続いたんだろうな…と思えるキャラをそれぞれ作っていて、本当に魅力的なカップルだった。
コウキ役の工藤は、雰囲気が、昔、宙組にいた、月岡七央に似ていて、雰囲気のある俳優さん。切ないのよ、なんか。あと、タクミ役の辻井が動揺する姿がめっちゃ可愛くて、よしよし[るんるん]っていう気分になった。ライフに客演しても合いそう。リアル可愛かったのは、アオイ役の吉田。20歳だもんね。
ツダヌマ役の根津は、すごく観た顔なんだけど、本当にあちこちで観てるのかな[exclamation&question]それとも、他人の空似[exclamation&question]…そか、「hedge1-2-3」で観たんだ[exclamation]


色々考えさせられる芝居。もちろん、観てよかった。
ただ、普通の演劇としての立ち位置で観られなかったのは、私の中の好奇の目なのかな、という気持ちが拭えない。ヘテロ男性が演じるゲイカップル、そんなのテレビドラマで山ほど見ているのに、なんで舞台だと、こんなに気持ちがザワつくのだろう。
考え続けたいテーマだな。

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