「OSLO」
作:J.T.ロジャース
翻訳:小田島恒志、小田島則子
演出:上村聡史
音楽:国広和毅
美術:乘峯雅寛
照明:勝柴次朗
音響:加藤温
映像:栗山聡之
衣裳:前田文子
ヘアメイク:川端富生
演出助手:五戸真理枝
舞台監督:北條孝、大友仁義
イツハク・ラビンの声(録音):大滝寛
アクション協力:渥美博
振付協力:新海絵理子
美術助手:竹邊奈津子
プロンプ:小谷俊輔
タイトルの「OSLO」は、ノルウェーの首都・オスロのこと。
ここで1993年、衝撃的な出来事が起きる。イスラエルの首相とPLOの議長が和平合意に署名したのだ。
2021年…あれから30年近く経った今年も、ガザ地区の爆撃が…といったニュースが繰り返されている。それだけ、中東の和平は難しい。だからこそ、1993年の出来事は、歴史の一瞬の光として記憶にとどまる。
その奇跡の合意が、ノルウェー社会学者…つまり、政治の素人の発案から始まった、という信じられない実話が、演劇として魅力的に構成されている。
政治の素人である社会学者、テリエ・ルー・ラーシェン(坂本昌行)は、ガザ地区を訪れた時、イスラエルとパレスチナの少年たちが、銃を手ににらみ合っている現場に遭遇し、こんなことが続く世の中を変えたい、と、妻で、外交官のモナ・ユール(安蘭けい)の協力を得ながら、イスラエルとパレスチナのトップ会談を画策する。
そのためには、アメリカの知らないところで、一気にことを運ぶ必要がある。これまでのアメリカを介した和平交渉は、すべてが失敗していた。
まずは関係者をテーブルにつけるために、代理人としてノルウェーに住むユダヤの大学教授(相島一之)が呼ばれたが、PLOから、こんな肩書のない相手と交渉しても意味がないと突っぱねられる。それでも、テリエはへこたれない。少しずつ、人間として分かり合うところからスタートして、どうにか、合意文書の草案を作り始めると、今度は、イスラエル外務省の面々が交渉の場に現れ、大学教授は最初は書記扱いになり、ついには、部屋に入れてもらえなくなる。端緒を開いたのは自分なのに…と、納得がいかない教授。
わかる
そんなふうに、大きな交渉事では、こういうことって、あるよねーみたいな話が次々登場、飽きさせない展開。
画期的な交渉成立までのドラマをたっぷりと熱く見せた後、登場人物たちのモノローグで、その後の世界情勢が語られる。
その時、歴史的な握手を交わしたのは、PLOのアラファト議長とイスラエルのラビン首相だった。しかし、ラビンはオスロ合意のわずか2年後に暗殺されてしまう。それからの、目を覆いたくなるような出来事の数々は、今も続いている。テリエが夢見た世界は、今も実現していない。
ドラマ部分と、モノローグの温度差が、見る者の心を凍らせるが、そういう世界を見ることができてよかったと思う。新国立劇場の奥行きの広い舞台をいっぱいに使ったラストの演出は素晴らしかった。
また、出演者が、すごい。
演出が文学座の上村聡史ということもあるのか、文学座の俳優たちが、適材適所で使われている。横田栄司、石田圭祐、石橋徹郎、佐川和正、駒井健介、吉野美紗…
そして、那須佐代子、増岡徹、相島といった、別の劇団出身のベテラン俳優も顔を見せる。
この重厚感がたまらない。
いいもの、見たな~
再演されたら、絶対観るな、これも。
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