ミュージカル「パレード」観劇

ミュージカル
「パレード」


作:アルフレッド・ウーリー
作詞・作曲:ジェイソン・ロバート・ブラウン
共同構想及びブロードウェイ版演出:ハロルド・プリンス
演出:森新太郎


翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
振付:森山開次
音楽監督:前嶋康明


初演の時、この作品は、リピートはとてもできないけど、たぶん再演されたら、観に行っちゃうだろうな…という感想を持ったが、その通り、再演を観に来てしまいました。


この物語は、おそろしいことに「実話」である。
1913年、アメリカ南部のジョージア州アトランタ。宝塚ファンには、[るんるん]アトランタ、アトランタ、ランランララランラン[るんるん]でおなじみの南部最大の都市。
メモリアル・デイ(戦没者追悼記念日)から物語は始まる。この日、南部の人々は仕事を休み、パレードに参加する。しかし、工場長のレオ・フランク(石丸幹二)は、今日も出勤する。北部出身のユダヤである彼には、南軍は負けたのに、その事実を認めずに、まるで戦勝記念日のようにパレードをする人々が理解できなかった。
レオは、この土地で浮いていて、人々から理解されず、彼も人々を理解しようとしなかった。
彼が、工場長という仕事を受けたのは、高い給料と、妻のルシール(堀内敬子)が南部出身という二つの理由だった。妻は、レオにも南部の風習を理解してほしいと願っていたが、それは難しかった。
メモリアル・デイの翌日、工場で働いていた13歳のメアリ・フェイガン(熊谷彩春)という少女が死体で発見された。
そして、事件から数日、なんの関係もないレオが犯人として逮捕されてしまう。裁判では、死刑判決。夫の無実を信じる妻は、南部女性の強さを発揮、州知事(岡本健一)を動かして、夫の減刑を勝ち取る。
しかし、移送先の刑務所からレオは拉致され、リンチを受け、殺害されてしまう。犯人は捕まらず、アトランタは、再び、メモリアル・デイの歓声に包まれる。


えぐいでしょ[exclamation&question]
えぐいですよね[exclamation&question]
再演されたら行っちゃうだろうな~という、出演者と演出の魅力はすごいのだけど、リピートできるメンタルを維持するのが難しい…[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]しかも、作り話じゃなくて、実話なので。
無実の罪で惨たらしく私刑で処刑されるーこんな酷い話が実話…しかも20世紀の出来事だというのだから。

さて、今回の舞台より、黒人メイクを廃し、黒人役の出演者は、黒いニットのストールを捩って首元に垂らしている。この作品は、その登場人物が黒人かどうか…がものすごく大事なので、一瞬でそれがわかるアイテムというのが、どうしても必要になる。ただ、ブラックフェイス問題が世界的な話題になる中、黒人メイクを是とするわけにもいかない。
苦肉の策という感じだが、それと知って観れば、理解は可能だと思った。私は、観劇前にツイッターでその情報を知ったのだが、知らなかったら気づかなかったかもしれない。
今後とも、日本で上演される、特に米国産の物語が、この点をどう扱っていくのか、見守っていきたい。


メインの登場人物は意外に多く、それぞれ、違った考えを持っているのだが、森新太郎の演出手腕により、感覚で理解できる。個人の考えが、場の空気に支配され、圧殺されていくさまを観るのは、胸が苦しい。
南北戦争が終わって50年後のアトランタには、やっぱり、無学の黒人が多く働いていて、子供でも働かなくてはならないプアホワイトがたくさんいて、殺人事件が起きると、まず最初にそんな人々が疑われるようなことが日常化しているんだな…[ふらふら]
そんな彼らの前に、新たなスケープゴートとして登場したのが、「よそ者のユダヤ人」だ。
南部におけるユダヤ人の人口は、人口1000人中、多くて15人。しかも、そのほとんどが北部からの転入者であり、比較的裕福だった。さらに工場長という責任あるポジションにあり、さらに、南部の文化(メモリアル・デイなど)に関心を示さないとあれば…敵視されるのは、火を見るよりも明らかだ。
妻のルシールは、数少ない南部育ちのユダヤ人だったが、南部の文化にすぐ馴染む妻を見ていることで、逆に、南部への怒りが増幅されているような部分(主人公のこの地になじめない孤独感)は、再演で強調された感じがする。
メモリアル・デイのパレードで使用される大量の紙吹雪が、異様な物語の異様さを表現していて、いたたまれない気持ちになった。でも、これって、「他人事」ではないんだよね。私達人類は、何度だって同じ過ちを犯してしまう。
そのことを胸に刻んで、劇場を後にした。


出演者感想。
石丸幹二(レオ・フランク)…初演の時は、立派な工場長という記憶だが、けっこうキャラ変したんじゃないかな。記憶違いかな[exclamation&question]南部になじめず、南部の異様な習慣を嫌悪し、北部でのやり方を変えず、周囲から浮いている。裁判でも、刑務所でも、自分の立場を客観的に把握できず、怒りの感情を制御できない。一方で、犯人であることを認めるくらいなら、殺されることを選ぶ芯の強さは初演のまま。完璧でなくなった分、レオの人間味がより伝わり、より、悲劇がクローズアップされた。彼あってこその、「パレード」だったと思う。


堀内敬子(ルシール・フランク)…南部出身者らしいおっとりした良妻賢母。しかし、ひとたびことが起これば、夫を救うため、どんな大胆なことでも平気で実行できる。まさにサザンベル。刑務所を訪れて、ピクニックを楽しみ、看守を遠ざけて、夫とつかの間の逢瀬を…レオが拉致され、殺害されたのは、その夜~夜明けのことだった。(レオが拉致された時、寝間着の下に下着を穿いていなかった理由は、たぶんこれ)どんな場面も、ほんとにキュートなルシールさんでした。


武田真治(ブリット・クレイグ)…新聞記者。レオ糾弾の急先鋒となるが、あらゆる場所をしっかり取材はしている。レオの死後、フランク家を訪れたりもしている。彼の記事が、事件に対する世論を形成したのは事実だが、新聞記者としては、普通のことをしたつもりなんだろうな、と思う。公演前半、新型コロナウィルスとインフルエンザに感染して休演したが、私が観劇した時は、元気な姿でステージに立っていた。大事なくてよかった[黒ハート]


今井清隆(トム・ワトソン)…活動家。こちらもジャーナリストなのだが、彼は、反ユダヤ主義を煽る人。初演は、新納慎也くんが演じていた。今井さんになったことで、(体重じゃなく)ちょっと重いというか、地の底から湧き上がるような運動になっていた気がする。彼には彼の正義があったのかな。


坂元健児(ジム・コンリー)…工場の清掃人。黒人。レオに命令され、殺害後、遺体の遺棄を行ったと証言。劇中も真犯人であることが暗示されているが、レオ・フランク事件も1983年(事件の70年後!)に新証言が出て、コンリーが真犯人であることが確定している。ジムが偽証をしていることについて、教育を受けていないものが、そんな上手に嘘をつけるはずがない、という理由で、偽証の可能性が否定されるのだが、教育の有無にかかわらず、生まれつき狡猾な人間はいるものだ…というのを体現していて、震える。真犯人だけど、陽気で歌がうますぎるため、逆に底知れないゾッとするものを感じる。怪演[exclamation×2]


福井貴一(ローン判事)…レオ・フランク事件を担当する判事。初演は藤木孝さんが演じ、再演も出演予定だったが、昨年9月に死去したため、福井さんが出演。検事の石川禅さん、弁護士の宮川浩さんとの三つ巴の駆け引きの心理戦が、作品の見どころのひとつでもあった。その中で、良識派というか、まともな紳士の部分を背負っているところは、藤木さんと同様。


石川禅(ヒュー・ドーシー)…州検事。アメリカの司法制度がどこまで日本と同じパターンかわからないが、取り調べについては、日本と同様、警察での取り調べの後、送検されて、検察での取り調べがあるっぽい。何人かの容疑者の中で、一番、犯人として公判維持できそうな(正しい意味での…ではなく、話題と市民の怒りの矛先として)レオを起訴する。そのためには、真犯人のジムと司法取引することも厭わない。このいやらしい検事を見事に演じきったさん。じわじわと、怒りがこみ上げてくるけど、さんだから、劇場出る時には、まいっか、みたいな気持ちになっている。


岡本健一(スレイトン知事)…ジョージア州知事。もともと本件には疑いの目を持っていて、無実の者を死刑にできないという理由で、終身刑に減刑する。その陰には、ルシールの働きかけがあった。ダンディな知事で、出番は多くないがインパクト大。この件が影響して次の選挙に出るどころか、殺害予告を受けてジョージア州から逃げるように去らねばならなかったという。そんな信念を貫くかっこいいスレイトンさんでした。


安崎求(ニュート・リー)…第一発見者なのに犯人扱いされた可哀想な黒人警備員。今回も安定的の安崎さんでした[exclamation×2]


未来優希(フェイガン夫人)…メアリーの母。彼女の悲しみが、南部の人々の中に犯人許すまじの空気を醸成していく。フェイガン夫人の悲しみは当然で、決して誇張もしていないのだが、それゆえに人の心を打つ。本当にさすが[exclamation×2]未来さんでした[黒ハート]別役で歌った黒人のナンバーもめっちゃかっこよかったです[るんるん]


内藤大希(フランキー)…メアリーのことをちょっと好きだった青年。初演は、小野田龍之介が演じていて、冒頭、南部の大地に一人立って歌うナンバーにしてやられたのだが、内藤の歌唱もとてもよかった。事件の起こる少し前のメアリーとの微笑ましいやり取りの可愛さと、最後に犯行に加わる狂気(内省もあり)…とても丁寧に役を作ってるな~と好感を持った。


秋園美緒(サリー・スレイトン)…スレイトン知事の妻。正しい判断をした夫を誇れる妻。まあ、その結果は、惨憺たるものになるわけだけど。ほんとに素敵な奥様でした[黒ハート]私は、聡明なサリーさんを誇りに思うわ。(何様[exclamation&question]


決して楽しいだけではないミュージカル作品だったけど、頑張って上演し続けることに意義があるんだろうな…と思います。再演されたら、また観劇したいな~と思ってます。

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