轟悠主演、星組シアター・ドラマシティ公演「シラノ・ド・ベルジュラック」の配信を見た。
シラノと言うと、私のような古いファンは、1995年の星組公演「剣と恋と虹と」を思い浮かべてしまう。あの時の公演では、シラノをそのままやるわけにはいかないと思ったのだろう、イケメンなエドモン(「シラノ・ド・ベルジュラック」の作者であるエドモン・ロスタンから名前を借りた)が、クリスティーヌ(=ロクサーヌ)の父を殺めてしまったことから、彼女への思いを口にせず、親友のジェラール(=クリスチャン)との恋を取り持つという設定になっていた。
しかし、21世紀の宝塚は、そして、轟悠は、鼻が大きいシラノが主役の物語の上演を可能にしてしまった。
もちろん、付け鼻。
絶妙な鼻だった。正面から見ると、それほど気にならない。でも横顔になると、やはり、少し高すぎるな…と思わせる。とはいえ、「これくらい大したことない」と思ってしまうのは、轟の美貌ゆえか。
剣豪で詩を愛する孤高の男、シラノ・ド・ベルジュラックの名場面が、原作戯曲に忠実に描かれた、とても誠実な舞台だと思った。脚本・演出の大野先生、どのような経緯でこの作品に挑戦することになったのか、まったく想像はできないが、よい仕事をされたな~と思う。
轟の独特のセリフ回しは、とても詩人らしく、ラストシーンのカタルシスに見事にハマった。
ヒロイン、ロクサアヌを演じた小桜ほのかは、声の美しさ、まろやかさが魅力。ラストシーンの手紙の詠唱がとても大切な場面なので、彼女の声でぐっと盛り上がったと思う。
ロクサアヌと愛し合い、戦地の露と消えるクリスチャン役に瀬央ゆりあ。シラノの物語には、彼のちょうど正反対のところにいる好青年、美貌の持ち主でありながら、その心根を語る言葉を持たないクリスチャンが絶対的に必要なのだな~と思わせる存在感だった。
そして、別箱公演でも圧倒的な存在感を見せる、ド・ギッシュ伯爵役の天寿光希。ただの色敵に終わらない存在感と、「彼の側の正義」を感じさせる役作りに、今回も深く感じ入った。
極美慎は、どこにいても目立つし、いつだってイケメンで、なんだか嬉しくなってしまう。ラグノオのその後の人生が少し心配だ。
ほかに、新組長の美稀千種の手練れ感には安心しかないし、リニエール役の朝水りょうが場を盛り上げる。腰元役の紫月音寧のちょっとした気遣いが素敵だな~と思う。
さすがにこの作品のために大阪に行くことはできなかったが、生で見たかったな~と思わせる佳作でした。
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