加藤健一事務所Vol.108
「プレッシャーーノルマンディーの空ー」
作:デイヴィッド・ヘイグ
訳:小田島恒志、小田島則子
演出:鵜山仁
美術:乘峯雅寛
照明:古宮俊昭
音響:秦 大介
衣裳:加納豊美
ヘアメイク:馮 啓孝
舞台監督:畑﨑広和
史上最大の作戦、ノルマンディー上陸作戦の秘話といった物語。
タイトルの「プレッシャー」は、主人公のスタッグ博士にかかる重圧と、当日の海洋上の“高気圧(High Prressure)”“低気圧(Low Pressure)”に掛けたものかな。
1944年当時、天候の変わりやすいイギリスで、3日後の天候を当てろと言われているのだから、そりゃ、プレッシャーは、ハンパない。しかも、もし、晴れと予報して嵐だったら、何百万の兵が死ぬかもしれない。いや、それどころではない。失敗したら、もう次はない作戦なのだ。
まさに歴史の転換点と言えるD‐Dayは、どうして6月6日になったのか…その緊迫した3日間の物語
という風に思って観ていたら、休憩時間に、後ろの方から、「ノルマンディー上陸って、実際、いつだったんだっけ」という声が聞こえてきて、ああ、そこを知らないと、さらに別の楽しみ方になるな~
と思った。
ノルマンディー上陸作戦みたいな、当時日本はそれどこじゃなかった時代の物語って、なにかのキッカケがないと、知識が入ってこないことがある。世界史の授業も、だいたい第二次世界大戦に届かないうちに終わってしまうし…
話は違うけど、BBCの暗号放送の件(今回も出てくるけど…)が、なんの解説もなく「リラの壁の囚人たち」(宝塚)に登場して、それはドラマになんの影響も及ぼさないのだが、知っていれば、そろそろノルマンディー上陸作戦の頃なんだな…と理解できる構造。いろいろな楽しみ方ができる…という意味で、ちょっと思い出した。
イングランドにある連合国遠征本部に、気象学者のスタッグ博士(加藤健一)がやって来たところから、話は始まる。スタッグ博士は、すぐに自分の研究室レベルのものを要求するが、ケイ・サマズビー中尉(加藤忍)は、スタッグがアイゼンハワー大将(原康義)に十分な敬意を払っていないことに、イラッとしている。
スタッグは、海洋上の低気圧、高気圧がどのように移動するかを予想することで、気象予報を行う。が、アイゼンハワー(以下、長いので愛称の“アイク”にします!)が連れてきたクリック大佐(山崎銀之丞)は、過去30年の気象データに基づいた気象予報を行う。そして、二人の意見は真っ二つに分かれてしまう。
スタッグ博士は、決行の日とされた6月5日には嵐が来ると予想し、クリック大佐は快晴だと言う。もし6月5日がダメなら、次の候補日は6月19日、その次はない。ドーバー海峡の6月の天候は不安定で、6月19日の天候が今よりマシだという保証はない。進退窮まった上に、個人的に、妻が出産を控えているという事情もあって、心配性なスタッグ博士は、わやくちゃな状態になっていた。
やがて、ケイや、軍の気象官アンドルー(西尾友樹)が助手となり、スタッグは、5日に嵐が来ることを確信するー
ノルマンディー上陸作戦という世界を揺るがす大作戦の裏側で、スタッグの赤ちゃんがちゃんと生まれるか…とか、ケイとアイクの道ならぬ関係は、アイクが帰国したらどうなるのか…とか、個人の物語も進行していて、結局は人間の話なんだなぁ~。
よくできた芝居で、大満足。
スタッグの予想通り6月5日には嵐がやってくるが、スタッグは、この嵐が6日には晴れることに気がつく。もうひとつの低気圧の進みが止まったからだ。24時間延期された作戦は、こうして「決行」に進むーというドラマチックな展開は、結果を知っていても、面白かった。
この作品にどうしても必要なアイテムに天気図がある。
壁いっぱいに、天気図を広げるシーンは、白い大きな掛け軸状のものを交換し、そこに天気図の映像を投射していくのだが、感染予防の関係で空調を強くしていたせいか、空気の流れで光が揺れて、気が散った。描かれた天気図を使用するのは、難しかったのかな。どうせ架け替えるのだから、アナログなやり方でもよかったのでは
私が女性だからか、ケイ・サマズビー中尉の切ない女心に、一番、心惹かれた。
電気工と作戦に関係する大将の役で、元ずうとるびの新井康弘が元気な姿を見せていて、懐かしかった。
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