豪華版「男おいらん」朗読劇

豪華版
「男おいらん」朗読劇


原作・脚本:内藤みか
演出:田中寅雄


遊廓らしい赤い格子に大量に花を散らした美しい背景。開演前から、その毒々しい美しさで、異世界感を見事に表現している。まず、この装飾に心を奪われた。そして、開演前に流れている音楽。直前にかかっていたのが、「色彩のブルース」で、それが、この毒々しくも美しいセットをさらに引き立てていたように思う。
朗読劇なので、配役をいくつも変えて上演されているようで、蓮組・華組・鏡組の3つのチームがあり、さらにチームを超えた変則キャストも存在するらしい。たぶん、柾木役の桜樹舞都と、飛竜役の松本旭平が2つの組にエントリーしているから、その調整なのかな。
私は、「華組」公演だけを見たので、感想は、あくまでも華組のものになる。配役も、華組のものだけを記載しているので、ご了承ください。


設定として、時代は江戸時代。おそらくは、江戸後期。
東北の貧しい農家に生まれた柾木(桜樹舞都)は、浅草の呉服問屋に奉公することになっていたハズが、気がついたら、吉原の奥に佇む“裏吉原”でデビュー。彼は桜木屋という見世で、女の着物を着せられ、男遊女として男相手に春をひさぐことに。
彼を買ったのは、宗次郎先生(光富嵩雄)という蘭方医。酒を呑んだだけで、すぐに意識をなくすような柾木を見て、すっかり惚れ込んだものの、それゆえに、その夜は、彼に手を出さずに帰って行った。
桜木屋には、ほかに男遊女として、飛竜(林瑞貴)と千早(高橋司)がいて、二人とも貧しさゆえにここに売られてきていた。
飛竜は、商家のぼんぼん、亀屋金太郎(日名子祐多)という客を掴むが、富くじが当たれば、飛竜を身請けしてくれる…という途方もない夢を語り続ける金太郎に、飛竜は、とうとう愛想をつかす。
千早は、もともと強度のブラコンだったらしいが、ある日、兄によく似た元ヤクザの嵐岡之助(藤波瞬平)を庇って楼に連れて来て、しばらく面倒を見ていたものの、足抜けして追われている岡之助は、一人旅立っていく。
柾木は、幼馴染の光祐(小郷拓真)も医者になるために江戸に来ているのは知っていたが、あろうことか、彼が師事していたのは、宗次郎だった。当然の如く、柾木が男遊女に身を落としたことは、早い段階で知られてしまう。宗次郎は、嫉妬心から、光祐を破門にしようとするが、柾木がとうとう身を委ねると言ったため、思い留まる。正式に宗次郎を旦那とした柾木は、宗次郎の引きで、男遊女の上位格である、「男おいらん」となる。
しかし、決してそういう仲というわけでなく、痩せて体の弱い柾木を心配した光祐が、滋養になるものを差し入れするだけだったのに、鯉は盲目状態の宗次郎は、光祐を破門し、柾木からも手を引いて去っていく。柾木は、もしかして結核[exclamation&question]みたいな状態になるが、長崎で医学を学ぶ光祐から託された薬の力で、回復するかもしれない…という希望が見える。


まあ、だいたいそんな話だったと思う。


朗読劇なので、出演者は、台本を持ってセリフを読むのだが、動きも多く、冒頭にはダンスシーンもあったりして、単なる朗読劇とは言い難い。柾木と宗次郎のラブシーンは、センターの格子セットの後ろ側で、ねっとりと行われていたり。
また、出演者には、ちゃんと衣装が用意されていて、男遊女の三人は、長襦袢、髪飾り、化粧で、まさに「男遊女」の風情。その他の出演者も着流しや袴姿で登場、見た目から江戸時代な雰囲気を醸し出している。
出演者は、若手俳優がほとんどなのだが、イケメンで演技力もあり、真摯な熱演で、こちらもうるっとさせられることが度々。
朗読を含めた演劇として、満足できる公演だった。


とはいえ、「男おいらん」の世界に嵌まるのは、かなり難しい。
私は、中学3年生からの2~3年間、元祖腐女子として生きた自覚があるのだが、卒業生として、「男おいらん」は腐女子の世界観なのだ、と思った。
騙されるようにして、遊廓に売られてきた男遊女たち。
男たちに身体を売るのは、それしか生きる道がないから仕方がないが、だからといって、男性相手に恋愛感情を持つかというと、それはまた別の問題ではないかと思う。少し前に書いた「さよなら、チャーリー」と同様、肉体が女性の代わりに男性を受け入れたからといって、男性を愛するようになるというのは、短絡的過ぎる、ということだ。てか、そもそも、遊女にされる少女と違って、男遊女にされたら、狂ってしまう少年だっているんじゃないの[exclamation&question]そういうセクシュアリティ上の問題を、さっくりカットしてしまう設定に、腐女子目線を強く感じてしまう。
ジェンダーロールとセクシュアリティがごっちゃになっている、かなりおおざっぱな世界観があって、それは、たぶん、腐女子が「こうだったらいいな」と思って作り上げた想像上の世界だ。自分がそこに入れない恋愛ワールドの中に、気に入った男の子を入れ込んで、彼らの恋愛を外から楽しむ…腐女子の世界観を、卒業生として否定したり非難したりするつもりはないが、なんだろう、それをリアル男子に演じさせて楽しむのは、申し訳ない、と思ってしまう。
彼らが真剣に演じてくれるから、なおのこと。


お目当ての藤波氏は、着物の着崩し方にヤクザの色香があり、目つきの鋭さ、足の運びなど、朗読以外の部分にも惹きつけられた。セリフ声の良さは、もう言うに及ばず。相手役の千早を演じた高橋司くんが、可憐で一途なので、ほろっとしてしまった。
兄を慕う弟が、いつの間にか、居候の岡之助を一人の男として恋するようになっていく、そんなファンタジーを笑わずに、美しく演じてくれて腐女子卒業生として、ちょっと嬉しかったです。


ところで、東北出身と、あらすじに書いてあったけど、出て来た方言…あれ、山梨じゃないかなぁ…[あせあせ(飛び散る汗)]

この記事へのコメント