再演「現代能 陰陽師 安倍晴明」観劇

「現代能 陰陽師 安倍晴明」


監修:梅若実玄祥
原作:吉田喜重
脚本補綴:藤間勘十郎
演出:野村萬斎
振付:藤間勘十郎
企画プロデュース:西尾智子(ダンスウエスト)


舞台監督:空閑秀樹
美術:東原繁(スペース・ゼロ)
大道具:明治座舞台、大成紙器

照明:杉本公亮
音響:岡安智章(エディスグローブ)

CG制作:STV札幌テレビ放送
CG操作:高嶋一成(システムラサ)
衣裳:松竹衣裳、日本演劇衣裳
かつら:野田幸宏(野田福)
床山:西川みほ(野田福)
メイク:田中エミ(大空担当)


主催:サンライズプロモーション東京
共同主催:公益財団法人新宿未来創造財団(新宿文化センター)
企画製作:ダンスウエスト
制作協力:万作の会
協力:公益財団法人梅若会、宗家藤間流藤間オフィス


 <配役>
蘆屋道満:梅若実玄祥(能楽シテ方 観世流 重要無形文化財各個認定保持者 日本芸術院会員)
安倍晴明:野村萬斎(狂言方和泉流)
榊の前/葛の葉:大空ゆうひ


語り部/花山帝:桂南光 
舎人:高野和憲(狂言方和泉流)、月崎晴夫(狂言方和泉流)
晴明の式神:初姫さあや、綾月せり、琴音和葉、花柳まり草、花陽みく、西尾萌
道満の式神:松山隆之(能楽シテ方観世流 梅若会)、川口晃平(能楽シテ方観世流 梅若会)


地謡:山崎正道(能楽シテ方観世流 梅若会)、角当直隆(能楽シテ方観世流 梅若会)
囃子 
笛:竹市学(能楽笛方・藤田流)      
小鼓:大倉源次郎(能楽小鼓方 大倉流十六世宗家 重要無形文化財各個認定保持者)      
大鼓:大倉慶乃助(能楽大鼓方 大倉流)、林雄一郎(能楽太鼓方 観世流)      
鳴物:望月左太寿郎      
筝曲:佐藤亜美、日原暢子      
手妻:藤山新太郎(東京イリュージョン)、前田将太(東京イリュージョン)、高橋花子(東京イリュージョン)、上地由衣(東京イリュージョン)、山崎誠貴(東京イリュージョン)


今回の公演直前に北海道で大きな地震があった。
この作品は、能でありながらCGを多用するなど、新しい試みを色々としているのだが、そのCG制作を行ったのが、STV札幌テレビだった…ということで、公演後、主演の野村萬斎さんの発声により、募金活動が急遽行われた。
募金箱もなくて、式神が使っている布を使ってそこにお金を落としていくスタイル。
こういうことを、さら~っと発案して実行してしまう萬斎さんは、ほんもののスーパースターだな~[exclamation]と、あらためて感じる公演だった。


さて、この「現代能 陰陽師 安倍晴明」という作品は、2001年に初演されていて、海外公演を含み、もう20回以上公演が行われているそうだ。ただ、藤間勘十郎が脚本を補綴し、野村萬斎が晴明を演じるようになったのは、2016年以降。その時からゆうひさんも出演している。
そして、晴明のもとにいる可愛い式神ちゃんたち、前回は、3人の元ジェンヌ+文学座女子2名で構成されていたが、今回は、元ジェンヌだけ。(初演から出演し、一場面だけ踊る西尾萌さんは、おそらく日舞などの世界の方なのかな…と思うのですが、ちょっとわかりません。)全員、一応顔見知りということもあって、短い稽古期間でも、すごいチームワークだった。


ストーリー&場面は、初演と同じなので、内容については、こちらをご覧ください。


語り部は、初演からの、桂南光。晴明と蘆屋道満に術比べをさせる花山天皇も南光で、彼の登場する場面は、ユーモラスな空気が流れている。あとの場面は、けっこうおどろおどろしいので、南光のシーンが、よい息抜きになっている。
舎人役は、狂言師の高野和憲月崎晴夫がつとめている。この辺は狂言の型になっている部分。
で、晴明(野村萬斎)の無聊をなぐさめようと、式神たちが出し物を見せる場面は、西尾萌の勇壮な一人舞に始まり、初姫さあや・綾月せり・琴音和葉・花柳まり草・花陽みくによる、華やかな踊り(少しイリュージョンみたいな雰囲気もあり)や、手妻師による「浮かれの蝶」の見事な芸も披露される。
(初日は、蝶が扇から落ちる…というアクシデントもあったが、そこから徐々に起こしてまた舞わせる…という、ものすごい技に、呼吸も忘れて見入ってしまった[目]
元ジェンヌ式神たちの出し物は、イリュージョンといっても、ネタがはっきり見えるレベルのもので、手妻のすごさを見せるというよりは、全体の見栄え重視なのかな…と感じた。(会場が広いので、クロースアップマジック的なものだけではなく、大きな芸を選んだということなのかな…と思った。)
式神たちが晴明の無聊を慰める場面は、前回の公演でもあったと思うが、「浮かれの蝶」は今回初めて観た。わりと席が前の方だったからかもしれないが、ドキドキしたし、ストーリー性もあって面白い手妻だと思った。


花山帝(桂南光)の暇つぶしのような思い付きで、当代きっての二人の陰陽師が呼ばれる。
蘆屋道満(梅若実玄祥)と、安倍晴明(野村萬斎)。ここで、晴明の名前を聞いて黄色い歓声を上げ、道満の名を聞いてブーイングをする式神ちゃんたちがめっかわだったことは、強調しておきたい。
帝の前に、水を出して見せる晴明。ここでは式神ジェンヌが大活躍[exclamation×2]布を操って水を表現する面々と、その真ん中で鯛や鰹を躍らせる初姫さあやの可愛らしさ[黒ハート]
一方、道満の指図により、今度は、帝の前に火が現れる。
龍の姿を額に付けた式神が進み出ると、反対側から虎の姿を額に付けた式神が登場する。ここは、能の舞で、火VS水の戦いを表現している。(ただ、キャスト表を見ると、この二人は、道満の式神ということになっているので、道満の式神の龍虎の一人(虎)を晴明が支配下に置いたということなのかもしれない。
晴明が動かす虎の式神が龍の式神を追いやる形になったところで、花山帝は、晴明の勝ちを宣し、褒美をつかわすため、晴明だけを伴って奥へ入る。
残された蘆屋道満は、悔しさの中で立ち尽くす…


道満は、晴明をやり込めるために、晴明の父・安倍保名の元恋人で、宮中の争いの中、若い命を散らせてしまった榊の前(大空ゆうひ)の墓を訪れ、その霊を呼び返す。
初演の時は、もう少しおどろおどろしい雰囲気があったように思うが、今回は、榊の前の心情が前面に出た感じで、怖いといより、哀れな雰囲気を感じた。でも、般若の面とぼさぼさの髪でうごめく様は、さすがの迫力だった。


そして、都大路で晴明とすれ違う葛の葉のストップモーションで1幕が終わる。
舞台上には、いくつかの段差が設えてあり、そこを上ったり下りたりしながら、都大路を渉猟する葛の葉。外なのに、衣装がおひきずりで、長袴という歩きづらそうな姿で、どちらかというと、ガシガシ歩くゆうひさん榊の前[あせあせ(飛び散る汗)]
でも、お顔は、美しく、切ない表情がたまりません[黒ハート]


こうして、刺客として送り込まれた榊の前。
晴明の前では、榊の前として、晴明の父である保名に対しての恨み言を言ってみたり、晴明自身に対して、母である葛の葉として「お前は畜生(狐)の子だ」という刷り込みを行ってみたりする。
このキャストとしての初演から2年半、女優としての経験値もだいぶ上がり、榊の前の「くどき」は、ドギマギするほどに魅惑的だった。一方の葛の葉は、「お前なんか人間じゃない」ということを突きつけて、晴明の動揺を誘う。でも、あくまでも母である狐の葛の葉の立場から、晴明を心配する風の発言。どちらも、晴明を混乱させるための道満の策略通りに動いているわけだが、本人は、あくまでも、榊の前であり葛の葉であるべきなんだろうな。
そういう意味で、女として花開こうとするまさにその時に死なねばならなかった、その情念の深さであったり、命より大切な子供を置いて去らねばならなかった、母の情愛の深さであったり…を余すところなく描き出していて、大満足。
初演では、「変わり身」の瞬間を際立たせていたが、今回は、声の質からして別人で、どちらを演じているか、誰の目にも明らかだったので、そういう意味でも女優としての幅を強く実感した。


晴明の胸に抱かれ、いざ、誘惑を完遂しようとした時、正体を見破られ、背中の札を剥がされた榊の前は、最後に、道満の手先として、髪を振り乱し、蜘蛛の糸を投げつけたり…と、善戦するのだが、やはり、晴明と式神の前に敗れてしまう。
五芒星の結界の中に囚われたのでは、かなわないなぁ~[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]


梅若実を襲名し、さらなる大物感たっぷりの蘆屋道満=玄祥さま。
そして、安倍晴明を軽やかに楽し気に演じる野村萬斎さま。前回との微妙な違いは、萬斎さんの単独演出が生んだものかもしれない。重さと軽さの配分が絶妙だった。
このお二人に伍して、情感たっぷりに榊の前/葛の葉を演じ切り、さらに、歌舞伎のごとき大立ち回りでは、女性的な弱さを微塵も見せないカッコよさ…大空ゆうひの真骨頂は、こういう辺りにあるのではないか、と思った。


本人的には、女優として極めたい気持ちが強いような気はするものの、伝統芸能とのコラボは、ゆうひさんならではの魅力が出るので、またお声掛けいただけたら、私は嬉しいです。

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