「空飛ぶタイヤ」

映画「空飛ぶタイヤ」、見てきました。


めちゃめちゃ良かったです[黒ハート]


もちろん、原作が良いということは、言わずもがなだが、かなり長い原作を2時間に纏め、しっかりテーマを伝えていたし、主人公だけでなくすべての登場人物が、自らの信念を見せる群像劇としても優れていたし、さらに、台詞にすべてを語らせず、余白を持たせたところもよかった。イケメン&美女のみアップが多い…という余計なサービスはちと気になったが、それを差し引いても良い映画と言っていいと思う。


物語は、ご存じの方も多いと思うが、こんな感じ。
赤松運送の若いドライバーが運転するトレーラーから車輪が外れ、歩道を歩いていた主婦(谷村美月)を直撃して死亡させた。警察は、整備不良を疑い、社長の赤松(長瀬智也)も、最初は、整備を担当した門田(阿部顕嵐)を疑う。しかし、門田が、通常の整備項目以上の厳しいチェックシートを使って整備をしていたことがわかったため、家宅捜索を受けながらも赤松運送は立件されなかった。
とはいえ、小さい子供のいる主婦が死亡した事件を起こした…ということで、取引が停止されたり、メインバンクのホープ銀行から融資を断られたり、会社は徐々に窮地に陥る。先代からの専務、宮代(笹野高史)や、営業の高嶋(大倉孝二)からも、会社存続のための手を打ってほしいと再三言われる。
その一方で宮代は、別の可能性を示唆する。ホープ自動車製のトレーラーの構造的欠陥だ。
過去に、同じような事故を起こしている運送会社があったのだ。赤松は、群馬県の野村陸送まで行き、社長の野村(柄本明)から、話を聞く。
赤松は、ホープ自動車販売部カスタマー戦略課の課長、沢田(ディーン・フジオカ)にコンタクトを取ろうとするが、取り付く島もない。既に整備不良という事故原因が判明しているのに何度も連絡をよこす赤松にイラつきながら、どうも社内の様子がおかしいことに気づく沢田。
そんな沢田に車輛製造部の小牧(ムロツヨシ)が声を掛ける。そして、品質保証部の杉元(中村蒼)を紹介する。こうして沢田は、自社の中にリコール隠しという秘密があることを知る。
一方、ホープ自動車からグループ会社として融資を迫られているホープ銀行本店営業本部の担当、井崎(高橋一生)は、週刊潮流記者で、大学時代の友人、榎本優子(小池栄子)から、ホープ自動車のリコール隠し疑惑について聞かれ、同社の狩野常務(岸田一徳)の発言に不信感を持ち始める。
小さな赤松運送が、巨大な財閥グループを相手に、真実を求めた時、小さな奇跡が、大きな奇跡を呼んだ。


すごくいいなぁ~と思ったこと。
登場人物が、大きな正義を振りかざしたり、自己犠牲に酔ったりしないこと。
たとえば、ホープ自動車の小牧は、そこに不正があるかもしれないと知って、沢田を巻き込む。自分は、子供が小さくて、今の立場を捨てられない。バツイチ独り者の沢田なら思い切ったことがやれるんじゃないか、と考えるのだ。
その沢田は、人事から花形の商品開発部への栄転を打診されると、一度はそれに乗る。彼が、杉元のPCを捜査当局に開示するのは、自分が窓際に追いやられたと知ってからだし、そもそも社長に上申書を提出したのも、販売部が事実を知りながら、隠ぺいに加担したと言われないための自衛でもあった。
杉元もリコール隠しが悪だと思いながら、自分は動かなかった。大阪に左遷されると知って初めてPCを沢田に託す。
ホープ自動車リコール隠しを記事にしようとした榎本も、週刊潮流が巨大スポンサーとしてのホープ財閥をおそれ、掲載が見送られた時、何もできなかった。でも、赤松に自分が調べたホープ自動車の事故記録の一覧だけは手渡した。
多くの運送会社が、訪れた赤松を追い返したが、一社だけ、同じように事故のあった会社を調べていた運送会社の人を紹介してくれる。
その、新車が破損した富山ロジスティックの相沢(佐々木蔵之介)も、ホープ自動車出身の社長に抗えず、それ以上の手段を取らなかった。しかし、彼は、破損について詳細な資料を作っていた。そしてそれを訪れた赤松に託す。
赤松も最後は、刑事の高幡(寺脇康文)にすべてを託した。


自分の人生を捨ててまで正義を貫くことはできない。
でも、何もしないでいることはできない。
銀行出身の池井戸らしい存在、こんな赤松に融資を決める「はるな銀行」の存在もいい。小切手の名前しかないが、この銀行は、頭取が女性なのだ。
池井戸の作品には、銀行は本来こうあるべき、というテーマが繰り返し登場する気がする。
それもまた、銀行員としては、世の中を変えることができなかった池井戸が作品を通じて、後輩に託している言葉なのかもしれない。


自分達の会社が運行していたトレーラーから外れたタイヤが一人の人間を死なせた。
赤松は、被害者の夫(浅利陽介)から、どうしてちゃんと謝罪しないのか、と聞かれる。なぜ、すべて自分たちが悪い、と認めないのか、と。
それに対して、赤松は、答えずに頭を下げる。


トレーラーの持ち主であり、運転手の雇い主として、責任を感じている、というのはもちろんある。それについては、心から謝罪するものだ。
しかし、巨大な組織の前に屈して、全責任を取るということは、実のところ、責任を回避していることになる。
このまま、リコール隠しを野放しにしたら、必ず、次の事故が起きる。また死者が出るかもしれない。それを防ぐ責任は、事実を知っているもの全員がかぶらなければならない。
だから、赤松は、自分の命を犠牲にしたりはしないが、会社を危機に追いやっても、最後まで粘ったのだ。そして、粘れるものだけが、残ったのだ。
途中で退職した高嶋も、再就職後のスーツ姿で、ニュースに見入る。彼は決して裏切者ではない。
みんな生きることが大事。その上で、正義がすべての人に降り注ぐように努力する。そんな、小市民的なカッコよさが全編から溢れていた。


登場人物がイケメンすぎるという評もあったようだが、私の中でNHKイケメン枠に該当するディーンと高橋のキャラが全然違うんだな~ということが知れて、それだけでも、このイケメン共演には意味があったと思っている。

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