「この熱き私の激情」観劇

「この熱き私の激情 それは誰も触れることができないほど激しく燃える あるいは、失われた七つの歌」


原作:ネリー・アルカン
翻案・演出:マリー・ブラッサール


翻訳:岩切正一郎
振付:アンヌ・テリオール、奥野美和
音楽:アレクサンダー・マクスウィーン
美術:アントネン・ソレル
衣装:カトリーヌ・シャニオン
照明:ミッコ・ヒンニネン
音響:井上正弘
ヘアメイク:川端富生
演出助手:大江祥彦
舞台監督:小笠原幹夫
プロデューサー:毛利美咲
製作:井上肇
後援:カナダ大使館、ケベック州政府在日事務所
企画製作:(株)パルコ


ネリー・アルカンの映画を見た話はこちらに書いた。
舞台のチケットのおまけで映画が見られるなんて、お得~[るんるん]と思って見に行ったのだが、実は、舞台の方の日程を間違って覚えていて、おまけの映画は見たものの、舞台は…ということになりそうだったところ、お声掛けいただき、別日程の公演を観ることができた。
お声掛けて下さった友人の皆様に感謝したい。


舞台は、2階建て全10室の「部屋」。その部屋に6人の女優と1人のダンサーが現れては消え、独白とダンスでネリー・アルカンを多角的に表現する。部屋の前面はアクリル板になっていて、出演者はハッキリと見えるが、実は彼女たちと同じ空気を観客は共有していない。見えない壁があるのだ。


「幻想の部屋/幻想、イメージと肉体について」…芦那すみれ
空の絵の描かれた絵画に囲まれた部屋。
このシーンが初っ端で、でも、一番長く感じた。
すごいパッションで、動き回り、熱く心情を吐露するのだが、何度もM字開脚をしてくれることも含め、すごく苦手に感じた。


「天空の部屋/宇宙、星、自然について」…小島聖
ゴールドのタイトなドレスが美しい。
部屋は、白く無機質なトイレ。
なにやら、小難しいモノローグなのだが、ひたすら美しく危うく引き込まれた。


「血の部屋/家族の絆と血縁について」…霧矢大夢
ベッドルーム。売春婦の仕事部屋のような雰囲気。
ダンサー(奥野美和)が、蛇のようにチロチロと上の部屋から姿を見せる。
ここでは、霧矢は客を待つ売春婦のような体なのに、語るのは、家族と幼くして亡くなった姉のこと。
ベッドに横たわり、ピンと伸ばした足先にダンサー霧矢の矜持を感じる。


「神秘の部屋/運命とジャンルの混乱について」…初音映莉子
左上の部屋。この部屋が一番、生活空間っぽい部屋に見えたが、話は一番救いがない。
自分は、男の子が欲しかった親から望まれていない子だった、ということに囚われていて、自分なんてこの世にいらない…と、だんだん死を望むネリーの心情が、ポップな部屋にもかかわらず溢れていく。


「影の部屋/死の魅力について」…松雪泰子
下のセンター付近。背中を大胆に見せたタイトな裾の長いドレスが松雪の隙のない肉体に似合っている。
死を語る美女は美しすぎて、抑揚をギリギリまでおさえた台詞の力が素晴らしくて、とにかくもうひれ伏す。


「ヘビの部屋/信仰と狂気について」…宮本裕子
もはや、自殺は決定事項になっている。
漆黒の部屋の中で、熱にうかされたように繰り返し語られる物語は、ただもう悲劇でしかなくて…


才能のあるアーティストたちによる、実験的なドラマで、彼女の世界観を知らないと、なかなかストンと落ちてこないなーというのが正直な感想。最初の場面がかなりイタく感じてしまい、感情移入しづらかったという気もする。
親や兄弟との確執的なものは、どんな人も多かれ少なかれ経験しているものだが、性的な奔放さというのは、持ち合わせている人もいれば、そうでない人もいる。特に、高級娼婦として不特定多数の男性と性的な関係を結ぶ女性を理解できないと思う同性の観客は、少なくないと思う。そういう意味で初っ端で「ヒトゴト」になってしまう構成が本当に惜しいなぁ[バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)][バッド(下向き矢印)]
と思うのは、私だけだろうか。

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