「ビリー・エリオット」
<ロンドンオリジナル・クリエイティブスタッフ>
脚本・歌詞:リー・ホール
演出:スティーヴン・ダルドリー
音楽:エルトン・ジョン
振付:ピーター・ダーリング
美術:イアン・マックニール
演出補:ジュリアン・ウェバー
衣裳:ニッキー・ジリブランド
照明:リック・フィッシャー
音響:ポール・アルディッティ
オーケストレーション:マーティン・コック
<日本公演スタッフ>
演出補 : サイモン・ポラード
振付補 : トム・ホッジソン
音楽監督補 : スティーブン・ エイ モス
翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
振付補:前田清実
音楽監督補:鎮守めぐみ
歌唱指導:山川高風
照明補:大島祐夫
音響補:山本浩一
衣裳補:阿部朱美
ヘアメイク:前田節子(StudioAD)
擬闘:栗原直樹
演出助手:西 祐子、伴・眞里子、坪井彰宏
舞台監督:徳永泰子
技術監督:小林清隆
プロダクション・マネージャー:金井勇一郎
コーチ協力:Kバレエ スクール、Higuchi Dance Studio、コナミスポーツクラブ
ずいぶん前からこのミュージカルのことは聞いていたのだが、観るのは初めて。
複数キャストの多い公演だが、私の観たキャストは以下の通り。
ビリー:木村咲哉
お父さん:増岡徹
ウィルキンソン先生:柚希礼音
ビリーのおばあちゃん:久野綾希子
トニー:藤岡正明
ジョージ:小林正寛
オールダービリー:大貫勇輔
マイケル:城野立樹
デビー:佐々木琴花
トールボーイ:山城力
スモールボーイ:岡野凜音
貸切公演だったので、事前にHP等にキャストが発表されておらず、行くまで誰が出演するかわからなかったが、藤岡くんの出る回だったそれだけで、かなりテンションが上がった
さて、私は、ホリプロ主催公演とは、どうも、相性が悪い。過去の公演感想を読んでいる方は、なんとなくお察しいただけると思うが、そんなわけで、またまた今回も、あれれ…な感想を書いていくことになりそう。ご意見の違う方は、この辺でUターンの準備をお願いします。
まず物語の背景を知るためには、サッチャー政権下での政治を思い出さなければならない。マーガレット・サッチャーが英国首相に就任したのは、1979年。翌年、アメリカではレーガン大統領が就任している。サッチャーは、新自由主義を掲げ、国有企業の民営化や、法人税&所得税減税、消費税アップといった政策を打ち出し、世界恐慌以降最悪の失業率を記録した。
少なくとも、最下層の労働者には、最悪の首相と思われていたはずだ。
そして炭鉱業においては、20坑閉鎖、2万人リストラ案を公表したことで、一気にストライキへと機運が高まった。が、炭鉱夫たちも一枚岩ではなかったようで、優良炭鉱から徐々に脱落し、最終的に1年でストは収束した。その間、スト推進派がスト破りの一派を襲撃したり…と、鉱夫たち同士の争いも頻繁にあったようで…やるせないですなぁ
その辺の歴史の一部がニュース映像で流れる中、物語は始まる。
エリオット家は、父(増岡徹/吉田鋼太郎)、祖母(久野綾希子/根岸季江)、兄のトニー(藤岡正明/中垣内雅貴)という家族で暮らしている。父と兄は炭鉱で働いていて、母は病気で亡くなったらしい。ビリー(加藤航世・木村咲哉・前田晴翔・未来和樹・山城力)は、やや認知症気味の祖母の面倒を見ながら、週末は好きでもないボクシングのレッスンに通っている。
どうやら、鉱夫たちの家族向けに、安価で習い事ができる場所があるらしい。料金は1回50セント。ある時、ビリーは、ボクシングのコーチ役の鉱夫・ジョージ(小林正寛)から、集会所の鍵を次の先生に渡してほしいと言われて、集会所に居残った。ボクシングの次のレッスンは、バレエだった。バレエ担当のウィルキンソン先生(柚希礼音/島田歌穂)は、ビリーの話を全然聞いてくれなくて、レッスンを受けに来た体で彼に接する。そしてすでに50セントを使い果たしているビリーに、来週、ちゃんと今日の分のレッスン料を持ってくるようにと言う。
ビリーは、よくわからないままに、次の週、律儀に50セントを持ってバレエ教室に行った。もちろん、ボクシングには行っていない。最初、ビリーはそれほどバレエが好きなようには見えなかった。もしかしたら、大嫌いなボクシングを回避するための算段だったのかもしれない。
そのうちに、ウィルキンソン先生は、ビリーの中にダンサーとしての才能を感じ、大きなバレエ団のオーディションを受けてみてはどうか、と持ちかける。しかし、ビリーは、まだバレエをやっていると、父親に話していなかった。
出発の日、スト派とスト破りとの小競り合いで、トニーが負傷してしまい、ビリーは、出発できない。そして迎えに来た先生によって、バレエを習っていること、オーディションのためのレッスンをしてきたことが暴露される。それで父の逆鱗に触れてしまったビリーは、「お母さんなら行かせてくれた」と言ってさらに墓穴を掘り、一人感情のままに踊り続けるのだった。(以上1幕)
以来、家族関係はギクシャクしてしまったが、クリスマスパーティーの夜、一人踊るビリーの姿を偶然覗き見た父は、ウィルキンソン先生を訪ねる。もし、可能性があるのなら、バレエスクールとやらに行かせてやりたい、と。先生は、自分がお金を払ってでもビリーを行かせてやりたいと言うが、父は、それだけは…と断り、息子のために、スト破りに加わる。
最初は裏切り者、と罵ったスト派メンバーだったが、父の真意を知ると、一人ずつカンパしてくれ、ビリーは、オーディションに参加することになる。そこでも色々なことがあるが、見事に合格したビリーは、ストが終わった日、旅立ちを迎える。(2幕)
これ、そもそもは、「リトル・ダンサー」という映画が原作で、それを舞台化した、という流れらしい。そして、ミュージカル版は、映画よりも大人の登場人物のシーンが多く、背景的な部分がしっかり描かれているんだとか。
まあ、ビリーの出来次第で相当差が出そうなミュージカル、とても、「それだけ」の物語になんて、怖くて作れないよな~
では、率直な感想、いきます。
舞台となっているのは、イングランド北部の炭坑町。ここに住んでいる人が正確なクイーンズイングリッシュを話すとは思えないが、なぜ九州弁九州にはたしかに炭鉱が多く存在したが、だからって九州弁は、やはり安易な気がする。夕張炭鉱じゃダメだったわけ
つまり、なんとなく標準語じゃない程度の北海道弁とかの方が、変な先入観がなかったと思うんだけど。
というか、物語はほとんど全編がこの町が舞台=みんなが訛っているんだから、訛っている方が正じゃないのと思うのだ。ロンドンのママたちは、ざーます語を使っていたし、それで言葉の違いは明らかだし。
あえて全編を九州弁にする必要はないと思うのだが、それとも、訛ることが、イギリススタッフの条件だったのかしら
次に感じたのは、ビリーがバレエを好きになるポイントが分かりづらかった、ということ。
最後に彼は「電気」という言葉でバレエへの情熱を語る。でも、実際の舞台には「電気」と呼べるようなシーンはない。どっちかというと、ボクシングがイヤすぎる、とか、ウィルキンソン先生が怖すぎて断れない…みたいな受動的要素が大きかったような。
なんか、奪われそうになって初めて「踊りたい」という感情が湧きあがったように思った。いや、それで正解ならいいんだけど。
で、そこで1幕終わりの「Angry Dance」というクライマックスシーンになるわけだが、ここのダンス、段取り感がすごくて、あまり盛り上がれなかった。バレエ、ブレイクダンス、アクロバット…と様々なテクニックで魅せて行くシーンなのだが、なにしろ振付が難しい。そしてACTシアターの大舞台を一人で埋めなければならない。そりゃもういっぱいっぱいなんだろうなーと思うのだが、湧きあがるビリーの感情とダンスの間に距離感を感じてしまった。
特にヒップホップ系の振付のところ。今回のビリーは、ブレイクダンスが得意な子らしいので、そこに力が入っちゃったのかもしれないが、この場面、ビリーが気持ちのままに踊る、ということが重要なので、前半から感情を乗せてほしいな~と思った。感情が乗ってれば、振りなんか飛ばしても大丈夫だよって思うのだが、すごいカウント重視なのだ。そこは子供らしいというか。
あとは、これ、もう、私自身、どうしても克服できない、個人的な能力の問題なのだが、ビリーとマイケルがタップダンスを踊る場面で、「え、マイケル、そんだけ踊れるなら、キミもダンスを!」と思ってしまい、それが最後まで拭えなかった。ミュージカルのお約束である、そこらへんの一般の人が、とても上手に歌ったり踊ったりする…ということと、主人公がエンターテイナーになろうと努力していること、がどうしてもいい感じに脳内で合体処理できない。
実際、マイケルの方がタップの音がよく出ていたんだもん…
てか、なんかマイケル、すごく好き。マイケルの物語の方が、気になる。
ロンドンに出てバレエの学校に通うようになったらビリーの物語は完成する。男の子がバレエをやることへの偏見から解放される。でも、マイケルは、あの炭鉱の町(バレエやってるだけで、オカマか!と揶揄されてしまうような文化の果ての町)で、女装癖とゲイハートを持って生きていかなければならない。そっちの方が、どうなるんだろう?と気になってしまうじゃないか。
あとね、オールダー・ビリー(栗山廉/大貫勇輔)と踊る場面…私、これまで、フライング怖いとか思ったことなかったけど、「ピーターパン」の事故がまだ記憶にあるのかな…なんか、子どもでフライング、大丈夫か?みたいな、よけいな気分になってしまった。本当に素敵なんですけどね。(ホリプロ。反省してくれ)
上記、色々な点が絡み合って「好きなミュージカル」にはならなかった。
が、ビリーとマイケルが可愛すぎるのは間違いないので、ミュージカル好きな方には、オススメしたい。
最後に、出演者についても一言ずつ、書いてみるね。
木村咲哉(ビリー)…まず、名前、すぐ覚えるよね、これ(笑)最年少の10歳とのことで、まず、可愛い。でも、アクロバットは美しくて高さがある。バレエはちょっと苦手かもしれないけど、ダンスは上手い。歌は、台詞の延長的な感じで、途切れ途切れな感じになってしまうし、台詞と表情がマッチしてなくて(前方席だったからオペラを使っていないせいもあるとは思う)、深読みしてしまって疲れた。もっと表情を作った方がいいとは思う。成年の役者だったらね。でも、子どもだからな…あまり子役臭くはなってほしくないってことかもしれないし…。
とにかく可愛いし、個性もある。小さくまとまらず、でっかいスターになってください。木村拓哉?あ、咲哉くんと一文字違いの人ね、って言われるくらいに。
益岡徹(お父さん)…くたびれた感が、このお父さん役にピッタリ。バレエとか、全然理解できないけど、息子がやりたいって言ってるから、一生懸命理解しようとして、ロイヤルバレエでカルチャーショック受けまくりだけど、それも耐えて。踏んだり蹴ったりの人生だけど、愛情に溢れた人なんだな~と思える素敵なお父さんでした。
柚希礼音(ウィルキンソン先生)…いい意味で、田舎のバレエ教室のやさぐれた教師感がすごく出ていた。でもダンスは、オーラ溢れまくり。誰にでもやさしい人じゃないけど、ビリーみたいな原石を見つけると放っておけないんだろうなぁ~と思う。ダンサーになるために生まれてきた子を埋もれさせちゃなんねーという、使命感がハンパなかった。たしかに二流のバレエ教室かもしれないけど、二流のコーチじゃない。ロイヤルバレエが、ウィルキンソンさんの推薦状なんだから!と緊張するような、そんな逞しい先生でした。
しかし、フィナーレのチュチュ姿は強烈…なぜ、ちえちゃんだけ、インナーのパンツがハイレグなのそれいらんサービスや
蛇足ですが、いつも「パッセ」と言っていたちえちゃんの口から、正確な用語「ルティレ」が出てきたことにちょっと受けた
久野綾希子(おばあちゃん)…超可愛いおばあちゃん。表情豊かで、彼女の愛情深い人生が想像できる。フィナーレのチュチュ姿も、脚が細くて美しくドキドキいたしました久野さんのパンツは可愛かった。
藤岡正明(トニー)…血気にはやる兄ちゃん、可愛すぎる。藤岡くんのトニーを観られただけで、私は幸せですまた、好きな役が出来ちゃったなぁ
大貫勇輔(オールダービリー/バレエダンサー)…うぉーなんとも素敵なオールダー・ビリーでした。ビリーを見つめるまなざしが優しく、高みに導いてくれる感じで。いやー、すごいわー
それを上回るバレエダンサーの白タイツ姿のインパクト
益岡さんの視線が一点に集中しているので、私もつい意識してしまって…すみません…
城野立樹(マイケル)…かわいい。マイケルかわいいタップもすごくうまくて。マイケルが可愛くないと、はじまらないミュージカルですね、これ。てか、マイケルに入れ込み過ぎだ
終了後に、撮影タイム。可愛い子供たちでした。
私とホリプロの相性のせいなのか、このミュージカル自体が好き、というふうには思わなかったけど、ここに出演した子たちが、将来のミュージカル界、バレエ界で大きく羽ばたいてくれるなら、このミュージカルを上演した意味はあるだろうなぁと思った。
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