ミュージカル
「オグリ!~小栗判官物語より~」
脚本・演出:木村信司
作曲:長谷川雅大
編曲:手島恭子
振付:花柳錦之輔、竹邑類
装置:大田創
衣装:繁田真樹子
照明:勝柴次朗
音響:大坪正仁
小道具:市川ふみ
歌唱指導:楊淑美
演出助手:原田諒
舞台進行:荒金健二、宮脇学
昔、猿之助のスーパー歌舞伎で見たことがある演目。
スーパー歌舞伎は「ヤマトタケル」と「オグリ」と「八犬伝」しか見たことがなかったが、全部宝塚の演目になった。歌舞伎の演目は、宝塚的でないものも多いが、スーパー歌舞伎の演目は、宝塚との相性がいいのかもしれない。
馬頭観音の縁日から物語は始まる。
大きな馬のセットが舞台後方に設えられていて、最初はこれが馬頭観音という設定らしい。
「黒蜥蜴」の時に木村先生が、上野の大仏さまを変な風に作っちゃって、それ以来、木村先生って、もしかして仏像に関心が薄い?と思っている私には、素晴らしい発想というよりは、単に無知なのかも?という疑いが捨てきれなかったが、そこを忘れれば、大胆な発想で素晴らしいセットだなぁ
と思える。(馬頭観音という仏像は色々な種類があるのだが、基本的に顔は人型(憤怒の形相)で、頭部に小さな馬頭の飾りがついている。三面八臂が多いらしい。)
縁日なので、笹を持って集まっている若い衆に、語り部(藤京子)が、小栗判官の物語を話して聞かせる、という形で物語は始まる。
えーと、今日は馬頭観音の縁日で、でも、ここの神様が人間だった頃のお話って言っていたような気がするが、いったいどこの神社仏閣で主祭神は誰だったのだろう?
小栗は美濃国、墨俣(すのまた)神社に正八幡として奉じられているという情報もあるので、その神社なのだろうか?近くには照手姫を祀った結(むすび)神社もあるらしい。
ちなみに鬼鹿毛を祀った「円通寺」は、神奈川県と静岡県の県境にある。ここは、馬頭観音を本尊として祀っているようだ。
でも、登場人物が「都の男・都の女」だから、京都かな?京都で馬頭観音といえば、浄瑠璃寺だが、あそこのご本尊は阿弥陀如来(九体)のはず…というわけで、色々調べたが、結局、いまいち、設定がわかっていない。
まあ、とにかく、馬頭観音の縁日。
冒頭、いきなり、とてもよい声で歌い出すのが、煌雅あさひ。
なんて素敵な声昨年、私の中で急上昇した生徒なのに、まだ歌声が素敵だということを知らなかったとは…
勉強不足でした…
で、都の男とか都の女とか、モブがいっぱい出ている中に、よく見たら、華形ひかるも混じっていた。なんと豪華なモブ
ここで、小栗の成人までを、語り部が語り、都の男女(モブ)が演じる。
聴いていたはずの都の男女が、いつの間にか演じ手になっていく手法が自然で上手い。
大納言の妻(初姫さあや)がとても美しくて、毘沙門天(日向燦)がとても凛々しい。いい配役だと思う。
子供時代を、マリオネットで表現するのも、大胆かつ分かりやすい。
…木村信司には、過去様々な作品で、文句を書きまくったが、今回は、褒め言葉ばっかり書いている気がする。でも、本当のことだし、今回は、この調子で進めていく。
成長するまでの部分は、さらーっとテンポよく進めて、一気に小栗18歳が登場する。
赤い衣装でバーンっ!と登場する常陸小栗(壮一帆)。
堂々とした麗しい姿にため息が漏れる。実に端正で、輝くばかりに美しくて、しかも文武両道に優れていて、もう書物から学ぶことはない!なんて18歳にして宣言してしまうほど早熟な神童。さすがは、毘沙門天の申し子である。それを3Dで表現した壮の美しさがすごい。
ここで、嫁取りをしたものの、「気に入らない」と一夜の契りで72人の女性を返してしまう。
背が高い(愛純もえり)、背が低い(梅咲衣舞)、髪が長すぎる(春花きらら)、色が白すぎる(鞠花ゆめ)、そして色が黒い(芽吹幸奈)…と言いたい放題。最後に「地獄に堕ちろ~!」とか言われているが、まあ当然かも。
平安時代は、結婚しても三夜連続で通わないと、破談に出来るというルールがあったそうだが、この時代(たぶん室町時代とか?)もそうだったのかな?
まあ外聞が悪くても、そこまではまだ許された。
ところが、その小栗が本気で契ってしまった相手が、みぞろが淵の大蛇(花野じゅりあ)だったから、大変。とうとう、勘当されてしまう。その時、せめて自分の任地の常陸に流してほしいと、母が言ったので、小栗は常陸国に流される。
美しい娘に化けた大蛇の妖しさと、大蛇と知ってなお、少しも慌てずに求めていく小栗の剛胆さが気持ちいい。セットの大蛇もデフォルメが効いていて、センスがいいと思う。ただし、これ、前方席だと、蛇の頭と尻尾の両方を見ることはできない。(「スサノオ」でヤマタノオロチを全く認識できなかったが、その時から、本質的には成長していないらしい。前方席の観客は、高いお金を払って、発売日にチケットを買ってくれた貴重な観客なのだから、おろそかにしてはならないと思う。)
それから、「大蛇と契った」の振付は、ちょっと品がなかったかなー
常陸に下った小栗は、大剛の者として称えられ、(おそらく東国は、強い者には、それだけでステータスが与えられる土地柄なんだろうと思う)小栗判官として大勢の部下を抱える身となる。
ある日、諸国を遍歴している薬売り、後藤左衛門(華形)が小栗の元を訪れ、意気投合。ここで、小姓(彩城レア)から、小栗がいまだに独身であることを聞かされた後藤左衛門は、相模国、日光大明神の申し子と言われる、照手姫の話をする。
生まれる時のエピソード(神=日向とか)、育つ途中のマリオネット操作など、小栗と同じように繰り返したところに、説話らしい単純さが見えて、いい。
さっそく興味を持った小栗が書いた文を後藤左衛門は、照手の元に届ける。
ここで照手姫(野々すみ花)がようやく登場する。
後藤左衛門が、照手付の女房たち(芽吹・梅咲・春花・鞠花・天咲千華・桜帆ゆかり)に文を見せたが、達筆過ぎて彼女たちは笑い転げている。照手は教養も並々ならぬものがあるので、小栗の文が弘法大師レベルの達筆であり、文の中身も修辞に溢れた見事なものだということを見抜く。
が、最後にそれが自分に宛てられたものと知って、ショックのあまり文を破ってしまう。
さては、恋文を届けるつもりだったか、と女房に責められた後藤左衛門は、弘法大師もかくは…という文を破った罪は重い…と照手を脅して二人の逢瀬を演出する。
仏像らしきものの大きな掌に乗った照手が小栗に出逢うシーンは、美しく幻想的でもある。
この後、照手の行く先々で、手のセットが象徴的に現れるが、それは、照手が、日光大明神に守られた“日月の申し子”だからなのだろう。
照手は自らの意思で、小栗を夫とする。
が、東国武士の娘と結婚するためには、父の許しを得て初めて、娘の元を訪れることができる。いくら常陸の大豪族とはいえ、家のメンツを傷つけられた、照手の父、横山(萬あきら)は、承服できない。
かと言って、常陸小栗と全面戦争は分が悪い…と弱腰な息子、太郎(煌雅)、次郎(嶺乃一真)に対して、知恵者の三郎(紫峰七海)は、ある計略を思いつく。
小栗を招いての酒宴、そこでのやりとりを予想した場面は、紫峰の見せ場といっていい。
なるほど…と思わせる計略である上、一言一句そのままのセリフが、直後、小栗と横山の間で展開するのも、芝居がかっていて面白い。紫峰には、もう少しためてクサく演じてもらってもいいくらいだが、ここは演出の指示かもしれない。
横山は、人に慣れぬ馬「鬼鹿毛(おにかげ)」を乗りこなしてほしいと頼むが、慣れぬどころか、この馬、人食いの馬だった。
最初の馬頭観音は、ここでは鬼鹿毛となり、不気味に赤く目が光る。
が、小栗は、鬼鹿毛に心を開かせ、乗りこなすだけでなく、様々な曲乗りを披露する。(心を開いた鬼鹿毛が、涙を流すのも楽しい)
ここで、巨大化した木の玩具のようなもので、曲乗りを表現したのが面白かった。
失敗した横山は、再び小栗を招待する。
照手は、不吉な夢を見たから、と小栗を止めるが、小栗は大丈夫だと言って、招待を受ける。
そして、一の家来、侍6(瀬戸かずや・輝良まさと・真瀬はるか・銀華水・日高大地・大河凛)と共に毒殺されてしまう。
一方、照手もまた、娘の婿を殺して娘を生かしておくのは外聞が悪いと、横山の手によって、おりからが淵に沈められる。
が、その命を受けた、鬼王(浦輝ひろと)、鬼次(彩城)の兄弟の手によって救われ、ゆきとせが浦まで流されていく。ここで、親切な太夫(月央和沙)に救われるものの、その強欲な妻(愛純)によって、売られてしまう。
美しい照手には、どんどん高い値がつき、売られ売られて、美濃国、よろず屋という遊郭に買われていく。
ここで照手は、色々な言い訳をして遊女になることを拒み、16人でやっていた下働きの水仕事を一人で引き受けるなら…という条件を受け入れて健気に働き始める。
そんな照手は、夢の中で、死んだ小栗を思って涙を流す。
馬のセットは、後ろ側が階段になっていて、鬼鹿毛を乗りこなすときには、そこを上って大きな馬のセットに乗っているように見せていた。そして、ここでは、馬をひっくり返して、階段として使用する。
天国への階段を上るかのような、白装束の小栗…ここで、第一幕が終わる。
あっという間の展開で、気がついたら一幕が終わっていた。
ケレンたっぷりのエンターテイメントは、小栗という荒唐無稽な物語の舞台化に相応しい手法だと思うし、木村信司、久々のヒット作かも。単に私の趣味だったのかもしれないが。
プログラムによれば、長い間温めていた企画だとか。それが小栗なのか、別の漫画だったのかは、敢えて問うまい。
バウホールなら、壮一帆ならやれる!という木村先生のカンは正しかったと思う。
というところで、後日につづく。
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