「桜嵐記」と「fff」

今年、上田久美子先生は、望海風斗と珠城りょう、二人のトップスターのために、ふたつの物語を書いた。「fff」と「桜嵐記」。どちらも歴史上の人物が主人公だが、作品の構成の仕方が正反対で、久美子先生が、色々な作劇を試しているのかな…と興味を持った。 歴史上の人物とはいえ、ベートーヴェンと楠木正行には大きな違いがある。18世紀の生まれとはいえ、膨大なスコアを残しているベートーヴェンに対して、楠木正行の史料は少ない。また、その人を主人公とした先行作品の存在も膨大なベートーヴェンに対して、正行はほとんどない。 そんな対照的な二人の人物を主人公に、サヨナラ公演というプレッシャーも受けながら、上田先生はどのように作品作りをしたのだろうか。 「fff」はベートーヴェンおよび彼と同時代に生きた人々の人生、そして、彼らが生きた市民の台頭する時代を、一度バラバラのピースにして、再構築したような、観念的な作品に感じられた。ベートーヴェンの人生を一言で言い表そうとした時、誰もが思いつく「不幸」という「概念」を「相手役」に、「不幸」から生まれ「歓喜」を歌う「物語」に昇華する。そこに、観客のカタルシスが生まれる。ラストがカタルシスに昇華するのは、すべて、望海風斗と真彩希帆という稀代のシンガーコンビが率いる、最高にチームワークの高まった雪組メンバーによる、歌と踊りによる「第九」(歓喜の歌)あればこそ。最後の部分を、出演者と観客に委ね、その力を信じることで、舞台を成功へ導く。上田先生の演出家としての円熟を感じる部分だった。 …

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公演中止

東京オリンピックが宝塚歌劇団による国歌斉唱(いや、合唱だった気がする…)で華々しく閉会式を迎える中、演劇界は、大きな舞台2つの相次ぐ公演中止に、悲鳴が上がった。「舞台鬼滅の刃」は、8月7日17時公演が途中で中断、8日、9日の公演が中止となった。「ミュージカル憂国のモリアーティ」は、8月8日、9日の公演が中止となった。3連休の観劇日和というのに、あまりにも残念なニュースだ。出演者の体調不良が原因で、「鬼滅…」については、主役の体調不良だったので中止するしかないが、「モリミュ」の方はアンサンブルの体調不良なので、通常なら、演出を変えて8日の夜公演には間に合わせていた事例だと思う。でも、今は、体調不良者が発生した場合、PCR検査をするので、どうしても2日くらいは、公演中止期間ができてしまう。そういう時代だと思うしかないが、楽しみにしていた舞台が中止になって、一日、ふて寝してしまいました…  

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雪組大劇場公演

雪組大劇場公演に行ってきました。 朝7時の新幹線で関西へ。関東はものすごい雨だったけど、宝塚は晴れて暑い。晴雨兼用の傘をわずか3時間で本当に兼用してしまった いつもより10分遅い新幹線だったので、劇場に到着すると、ちょうど開場時間。いつものように、友の会カードをスキャンして入場。何度も確認しているけど、実券がないと、実際入場するまで不安ですね。(日頃、日時や会場を間違えているヒト…)劇場で、お友達にも会えたし、(東京で上演される公演のチケット受け渡し。なんで、わざわざムラでやるんだ、私たち…)短い滞在時間だったけど、満喫できた。 お芝居は、「シティハンター」。齋藤吉正先生脚本なので、いろいろ不安を抱えての観劇。以下、恒例により、箇条書きで感想を記載していきたい。 ・情報量多すぎ・香の100tハンマーは随所に登場したものの、例の単語は、すべて「ハッスル」に置き換えられてた。意味は通じるし、あの単語が示す直接的な雰囲気がなくなったことで、宝塚的に成立する作品になり得たと思う・齋藤先生らしく、映像を使ったシーンが多い。オープニングナンバーのところは、開演アナウンスも含め、ものすごくかっこいい特に「雪組の彩風咲奈です」の後に拍手が入るとかいうダサさがまるでなく、バーンっと映像が出た瞬間に拍手が起きるの、すごく自然でかっこいいあ、でも、今回、お披露目公演だから、本当は、今回こそ、そこで拍手入ってよかったかも…なんだけどあと、指揮者への拍手もバッチリ入っていて、本当によき開演アナウンスタイミングでした…

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7月の状況

東京都の7月は、まん延防止等重点措置(~7月11日)からスタートしたが、ほどなく第4波の感染者数が増加したため、7月12日から緊急事態宣言(~8月22日)が再び発出された。オリパラは、緊急事態宣言下の実施となるわけだ。をいをい…今回の緊急事態宣言下では、劇場での演劇公演は、21時までの上演時間を守ることと、5000人以下・キャパの50%どちらか少ない方の観客数とすることが義務付けられる。ただし、発売済の公演であれば、この対象とはならない。そのため、どこの公演も7月11日でチケットを一旦売り止めするところが多かった。宝塚では、再び、平日夜公演を18時半⇒18時開演に変更することを発表した。(これに伴う、昼公演の変更は行わない。たぶん、30分短くても大丈夫ということなのだろう。) 観劇できなかった作品…なし。幸運でした 視聴した作品…「演技の代償」(新感覚マーダーミステリ・配信用作品)、「ディズニー声の王子様」(配信用スペシャル編集)今回は、配信専用の番組のみ、配信観劇したイメージですね 普通に観劇できた作品…「アウグストゥス/Cool Beast!!」(東京宝塚劇場)、「コオロギからの手紙」(小劇場B1)、「VERDAD!!」(舞浜アンフィシアター)、「レ・ミゼラブル」(帝国劇場)、「trust-hedge3- 」(あうるすぽっと)、「羽世保スウィングボーイズ」(博多座)、「ロミオとロザライン」(紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA)、「舞台憂国のモリアーティ」(新国立劇場)、「マノン…

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宝塚月組東京公演「桜嵐記」観劇

ロマン・トラジック「桜嵐記」 作・演出:上田久美子作曲・編曲:青木朝子、高橋恵音楽指揮:佐々田愛一郎振付:若央りさ、麻咲梨乃殺陣:栗原直樹装置:新宮有紀衣装監修:任田幾英衣装:薄井香菜照明:勝柴次朗音響:実吉英一小道具:下農直幸演技指導:立ともみ所作指導:花柳寿楽歌唱指導:ちあきしん演出助手:熊倉飛鳥舞台進行:安達祥恵 珠城りょう・美園さくらコンビのサヨナラ公演。大劇場で、置いて行かれたまま、東京公演でも、悲劇に没入できずにいる。原因は、おそらく、SNSに流れる「号泣した」感想の数々。それでハードルが自然に上がってしまった。勝手に、ものすごい悲劇を想像して、そのわりに、納得性の低い展開だったので、白けてしまったんだろうと思う。もちろん、納得性の高い悲劇にしなかったところに、上田先生の深いこだわりがあるのだろう…とは思いつつ。人は、(特にサヨナラの時は)うまく騙されて号泣したい贅沢な生き物なのですよ。 幕が上がると、この時点では正体を隠した、壮年の楠木正儀(光月るう)が登場する。そして、客席に向かって、「南北朝をご存じですか?」と呼びかける。そして、ものすごく雑に南北朝時代というものについて解説を始める。武士政権の腐敗、楠木正成(輝月ゆうま)の登場と鎌倉幕府の滅亡、後醍醐天皇による建武の新政の失敗(武士を排除して公家だけで政治を行おうとしたため)…でもさ、倒幕は、足利高氏(のちの尊氏)なくしては成しえなかったはずなのに、そこ外して、正成ですかとは思う。主人公の父親である楠木正成の活躍を強調した…

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「夏への扉ーキミのいる未来へー」

子供の頃から大好きだったロバート・A・ハインラインの「夏への扉」。日本映画になったというので、行ってきましたどうして、この作品を邦画にしたか…というと、キャラメルボックスの舞台化で、「これができるなら、映画もできる」と考えたからだそうで…繋がってるんだな~ 高倉宗一郎(山崎賢人)は、27歳の若き天才エンジニア。幼い頃に両親を亡くした宗一郎は、松下家に引き取られ、本当の息子のように成長、松下の会社で研究に没頭していた。松下が亡くなってからは、松下の弟、和人(眞島秀和)が経営を引き継いでいた。松下の娘、璃子(清原果耶)は、ずっと宗一郎を慕っていたが、宗一郎は妹としか思っていない。彼は、美人の白石鈴(夏菜)と結婚するつもりだった。しかし、和人と鈴は裏で結託、宗一郎を罠にかけ、会社も研究も奪っていった。すべてを失った宗一郎は、コールドスリープ(冷凍睡眠)に入る決意をする。が、ここでも鈴の罠にかかり、自分の契約した会社ではなく、彼女の息のかかった生命保険会社のコールドスリープにより、30年の眠りにつくことになってしまう。宗一郎が目覚めた30年後の世界(2025年)では、人間型のロボットが病院の助手などの仕事についていた。そこで最初に出会ったロボット(藤木直人)は、なぜか、宗一郎の後をついてきて、彼が再び過去に向かう時も、後を追う。これは原作にはないキャラクターで、ほかにも、受付嬢のロボット(中島亜梨沙)などが登場、人間型のロボットは眉目秀麗なのね…と思った。戻った世界で宗一郎をサポートするのは、佐藤太郎(…

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星組集合日…

(公式HPより) 星組 退団者のお知らせ 2021/08/03 下記の生徒の退団発表がありましたのでお知らせいたします。    星組 紫月 音寧 夢妃 杏瑠 愛月 ひかる 漣 レイラ 彩葉 玲央 湊 璃飛 澄華 あまね 2021年12月26日(星組 東京宝塚劇場公演千秋楽)付で退団 思い入れのある子たちばっかりだけど…とりあえず、ここで衝撃的なのは、なんといっても、愛月の退団だろうと思う。2021年、2番手退団が二人って…異常だよね  上級生2番手というのは、そんなに普通にあることではない。でも、2番手にしたからには…っていうのが、これまでは、あったはずで。かくいうゆうひさんも、上級生2番手だったし。実際、10年くらい前は、2番手退団とかいったら、あれですよ、劇団の電話回線が壊れるような騒ぎだったし。2年前に、月組の美弥るりかが、上級生2番手から退団した時も、大騒ぎになった。が、大騒ぎだけでなく、グッズが売れたり、ライビュが売れたり、配信が売れたり、劇団としても、「それが商売になる」という側面が出てきたんでしょうね…。 でも、トップ時代に2番手交代があるというのは、トップにとっては、頼りない時期を上級生に支えてもらい、一本立ちできそうな辺りで、若い2番手がついて、その人に後を託すから、楽かもしれないけど、次のトップからしたら、2番手時期が短いってのは、プラスには思えないんだよな…。あ、その不安を上級生2番手に支えてもらい…ってこと 愛月 ひかる デ…

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会話やめてキャンペーン?

最近、私のツイッターのタイムラインには、定期的に、宝塚歌劇の公演で、客席&ロビーでの客同士の会話がよくない、やめてほしい…というツイートが、リツイートされてきて、たくさんの人が判で押したように、同じようなツイートをしていることに、複雑な思いを噛みしめている。 宝塚歌劇のHPから、現在の「お客様へのお願い」を見ていただきたい。とても長く、項目だてて記載されているので、たぶん、最上段の最も重要と思われる部分を転記します。 宝塚歌劇では、各公演の実施にあたり、政府や自治体等による新型コロナウイルス感染拡大予防のためのガイドラインを遵守するとともに、管轄の保健所のアドバイスもいただきながら、お客様と公演関係者の安心・安全を最優先に考え、以下の通り、感染予防対策の強化に取り組んでおります。 ご来場のお客様におかれましても、従来の感染予防対策に加え、特にご協力いただきたいことがございます。    飛沫などによる感染防止のため、会話(劇場内すべてにおいて)はおやめください。    劇場施設ご利用の際は、直接お越しいただき、観劇後などは速やかにご帰宅ください。 お客様に安心してご来場いただけますよう、出演者・スタッフをはじめ関係者一同、感染予防対策に努めてまいりますので、お客様にはご理解とご協力をお願い申し上げます。 ※会場により、一部運用が異なる場合がございますので、ご注意ください。 宝塚歌劇団から、観客である我々への最重要なお願いは、どうやら2つらしい。ひとつめが、劇場内で「会話」をしないで…

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「La Musique De Paris 1930-1970」(2)

「La Musique De Paris 1930‐1970」 ゆうひさんが出演するイイノホールのシャンソンのショーを観てきました。7月30日から8月1日の3日間行われ、出演者は日替わり。ゆうひさんは、30日と31日の2日間出演なので、この両日のレポートをしたいと思います。30日のレポートはこちらです。 (2)7月31日公演主な構成は、30日と一緒。出演者が変わっても曲を変えなかったり、出演者に合わせて曲を入れ替えたり、そういう構成の妙は、両方参加したからわかる部分…かな。最初に登場したのは、壮一帆。「さくらんぼの実るころ」を、温かい声で熱唱。ブルーの目が覚めるようなドレスで、メイクはあっさり。続いて、嵯峨美子が登場、「聞かせてよ愛の言葉を」をしっとりと。フランス語で歌うパートがあって、それが、すごく色っぽい続いて、萬あきらが登場、「バラ色の人生」を、アレンジたっぷりに聴かせてくれた。ふたたび、壮が登場して、「ラストダンスは私に」。可愛い~ 大空ゆうひは、昨日と同じ、白いブラウスと黒のパンツで、「愛の幕切れ」。ダンサーは、美翔かずき&千葉さなえ(涼瀬みうと)の同期コンビ。わざわざ、昨日とメンバーを入れ替えてくれたんだ途中で、千葉が引っ込んで、美翔のソロダンスで終わるところもかっこよかった続く「あきれたあんた」は、ゆうひさん一人で、幸薄く微笑みながら。似合う~ 続いて、真琴つばさで、「もしもあなたに逢えずにいたら」と、「ブルースを唄う女」。ここで、バンドメンバーのご紹介もあった。マミさんが出…

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